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昔から冷たく当たられようと、厳しく声をかけられようと、たしかな実力と威厳のある父に憧れ、尊敬してきた。
そんな父親に少しでも認められたいと、軍で功績を上げることが自分に与えられた使命だと信じ、今まで己を律して日々を励んできた。
しかし実際は、父親の「良からぬ企て」の道具として利用されていただけ。
今まで自分が追ってきた全てが無駄で、至極馬鹿らしいもののように思えてくる。
「...大尉、この後の宿に戻る手筈については整えて...、...どうされましたか。どこか具合でも悪いのですか」
「...!...コリンズ...。...別に何でもない。構うな」
「...」
ショーンが自身の腕に顔を埋め考え込んでいると、突如としてそんな声が掛かる。
声の主は昨日今日と自分に突っかかってくることばかりのノイで、蹲るショーンに心配そうな表情を浮かべ駆け寄ってきた。
「...しかし、」
「...触るな。私は平気だ、」
ショーンの腕に触れたノイの手を乱雑に振り払い、ショーンは壁に手を当てがいながらすくりと立ち上がる。
ノイはショーンを見上げながらも、これ以上関わったところで無駄だと分かったのか、何も言わずにその隣に並んだ。
「...表に出ておけ。もうフィン氏も宿に戻られる頃だろう」
「承知しました。ルーカスと私は車の前で待機しておきますので、何かあれば無線で知らせてください。それまでは周囲に危険がないか、目を光らせておきます」
「...相変わらず心配性だな。ここまできて何も起こるはずがないだろう。セントラルは今日も平和さ」
自分自身が必死にしがみついてきたものは何だったのだろうか。
そもそも、自分はなりたくて統合軍に入隊をしたわけではない。
煌びやかに出世を遂げる兄弟達に負い目を感じ、父親に勧められるがまま、ただ自分自身を誇れるものにしたいと望んで日々を過ごしてきた。
しかしその先に待っていたのは、ダグラスの名で出世の道を確立したドラ息子のレッテル。
本来の自分を曝け出して、誰もついて来なかったら。それこそ自分には何の価値もないと言われているようなものだ。
だからこそ、無駄に虚勢を張って、陰口に気付かぬふりをして、今日までこうしてなんとか自分を保ってきた。
しかしそれも───
「...ショーン。話は終わった。フィンさんを宿へ送り届けてくれ」
「...っ..、はい。父上」
「やあやあダグラスくん。今日は実に有意義な1日だった。最後まで頼むよ。ガハハ」
軍人としての自分に、もう存在意義を見出すことはできない───
会談が終わり部屋を出てきたデイビッド達にショーンは慌てて背筋を伸ばし受け答えするが、その心の中には、暗く澱んだ気持ちが渦巻いていた。
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