168人が本棚に入れています
本棚に追加
パーティーから宿へと向かう車に揺られ、ショーンはぼんやりとドリストの手元を見つめる。
目の前で機嫌良さそうに趣味の悪い指輪を撫でているこの男がどうなろうと、もはや自分には関係のないことだ。
寧ろ、ドリストがいなくなった方が幸せに暮らすことのできる市民が増えるであろう。
国のため、家族のために富を築き会社を守り抜いてきたのだと尊敬していた父も、今や裏で軍と結託し悪事に率先して身を捧げている。
「ダグラスくん。この後のことだが、着いたらすぐに昨日の娼婦を部屋に寄越してくれ。彼女、テクニックが凄いんだよ。昨日なんて俺の上に跨って...」
「ええ、承知しました。手配しましょう」
「...んん、そうか。よろしく頼む」
危機感のない戯言も、もう聞き飽きた。
ドリストがその先の言葉を言い終える前にショーンが短く相槌を打てば、怪訝な顔をしつつも静かになる。
そして、ガタガタと揺れていた車は宿の前に到着したことでその動きを止めた。
◇◇◇
「...大尉、正気ですか。ただでさえ彼は南部の妖魔族から反感を...」
「コリンズ、口を慎め。フィン氏のご所望だ、好きにさせてやればいい」
「...」
宿についてすぐに手配した娼婦は、扉の前でそんなやりとりをしているショーン達を暗い瞳で一瞥し、そそくさとドリストの部屋の中へと姿を消した。
ショーンの言葉にノイは納得のいかぬ様子で廊下の隅にいたルーカスを呼びつけると、すぐに所帯していた拳銃を腰から抜き取る。
「...おい、何を。物騒だ、今すぐにしまえ」
「念には念を、です。ルーカス、部屋の中に少しでも異変があれば突入する。気を抜くなよ」
「はい!」
「...そんなこと、許されるわけがないだろう!勝手はやめろ、もし何事もなかったらどうなるか...」
ショーンは身構えるノイ達に慌てて声を掛けるが、それもノイの今までとは異なる鋭い視線で制される。
「私たちの任務は、フィン氏の命を守ること。命は何事にも替えられない。いかなる時も、油断は禁物です。」
「...」
ノイの信念のある言葉にショーンは言葉に詰まり、最後には諦めたように「勝手にしろ」と吐き捨てて、自身はドリストの部屋の扉を固めるノイ達が見える位置で、ひっそりと佇んだ。
最初のコメントを投稿しよう!