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───...
「...、!?」
しかしいくら待てども、その時はやってこなかった。
その代わりに部屋の中には銃声が響き、廊下から流れ込んだ真冬の冷気が露わになっている身体を躊躇なく冷やす。
どさり、と何かが崩れ落ちるような音がして僅かながらに首を動かせば、そこには先程まで自身を殺そうと躍起になっていた女が手首を痛がるように押さえて倒れている。
「...やはり妖魔か。ルーカス、撃ったのは右腕のみだ。直ちに身柄を拘束しろ」
「はい!」
いきなり部屋に入ってきたノイとルーカスに、ドリストは一気に安堵する。
ルーカスはすぐさまベッドの脇に身体を滑り込ませると、鋭い眼光を携えたまま女を見据えた。
「...っ..、くそ...!...極限幻術..、」
「観念しろ、その術は今の俺には無駄だ。俺は今石化術を発動している。その術を掛けるために俺の目を見た瞬間、あんたは一生この世に戻れなくなるぞ」
「...っ...、」
ルーカスのこの先の行動を見透かしたような言葉に、女は悔しげに唇を噛み締める。
鋭い犬歯はその薄い桃色の唇を破り、ぽたぽたと口元から血が垂れた。
ルーカスは戦意を失って蹲っている女に、近くに落ちていたコートを掛けると、すぐさまその身体を拘束していく。
その様子を横目で見ていたノイはベッドの上でぶるぶると情けなく身体を震わせることしかできないドリストに視線を向けて、ベッドのシーツを手繰り寄せる。
そのままドリストの体を隠して、何か言いたげにノイに視線を寄越していたドリストをきつく睨み付けた。
「...その命を奪いたいと思うほどの憎しみを買っている自覚は、おそらく貴方にはなかったのでしょう。...しかしこれは自業自得だ。彼女の行動を擁護する気は一切ありませんが、貴方の金と権力に忠実なそのやり方は褒められたものではない。これを機に自身の生き様をいまいちど見直すべきなのではないでしょうか」
「...、..っ....」
自分よりも二回り以上も歳の離れているであろうノイからそんな言葉を掛けられて、ドリストはその目を大きく見開く。
しかし口がうまく回らずともその言葉に反論する気は起きなくて、ただただノイの言葉が己の心の中にずしりと響いた。
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