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「...っ..、これは..、」
一瞬の出来事だった。
部屋の中の僅かな異変。
ノイとルーカスが咄嗟に駆け出して、躊躇なく撃ち放たれた銃弾は真っ直ぐに女の右腕を貫いた。
迷いのない動き。連携の取れた部下とのやりとり。敵の制圧。護衛対象の安全の確保。
自身が奇襲に動揺している間に、事は全て終わっていた。
「...大尉、おそらく彼女は南部ネストリアの妖魔族の生き残り。逃げた先のセントラルで娼婦として生計を立てていたんでしょう。...今はルーカスが身柄を拘束しているので、すぐに本部へ引き渡しをお願いします。フィン氏は目立った外傷もありませんから、暫くは部屋で術が解けるのを待つ方が賢明かと」
「...あ、あぁ。」
ノイは入り口付近に立っていたショーンにそれだけ声を掛け、項垂れている女を立ち上がらせ部屋の外へと連れ出そうとしているルーカスに視線を向ける。
「ルーカス」
「...中尉、俺このままこいつを本部に連れて行くんで、こっちは頼みますね」
「ああ、わかった。よろしく頼む」
ノイ達のやりとりを聞きながらショーンも部屋に足を踏み入れ、威勢を失ったドリストの様子を伺うためにベッドの近くまで足を運ぶ。
そんな中、ルーカス達の姿を見据えていたノイは、女がその口元に不適な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
そしてその嫌な予感が的中するかの如く、女は手錠で拘束された腕を思い切り引いて扉付近でくるりと部屋の中に向き直るのが見える。
その瞬間、ノイは咄嗟にショーンとドリストを渾身の力でベッドの脇へと突き飛ばした。
予期せぬ出来事にショーンは受け身も取れないままドリストとともに床へと体を打ちつけて、今度は一体なんなんだと慌てたようにベッドの端から顔を出した。
しかし次の瞬間には片手をついてベッドを飛び越してきたノイが覆い被さるようにしてショーンの頭と体を強く抱き締められる。
「ルーカス!そいつからすぐに離れろ!」
「...っ..中尉..、」
抱き締められたまま頭上から聞こえたノイの声は焦燥に満ちていて、ショーンは刻一刻と変わりゆく状況に何もできないまま身体を震わせた。
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