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一瞬にして、部屋の中は業火に包まれる。
ショーンはノイに庇われながらも、その燃え盛る炎を前にして死を覚悟した。
しかしそれも、また予想を裏切られることになる。
「...っ..、ぐ...、」
「ルーカス...!」
「..中尉、無事ですか!」
ルーカスはノイ達を背後に庇うようにして魔術を発動させており、苦しそうに呻きながらも張られた結界を破られないように必死に力を込める。
まさか魔族に守られるとは思っていなかったショーンはその光景に目を見開くが、先程ルーカスが唱えていた呪文を脳裏に思い浮かべる。
───蛇眼隔壁...
元々「眼」を主にした魔術を駆使して戦闘を行う蛇人族が使うと言われている防御魔術。
その結界能力は局所的ではあるものの防御力に優れている。
しかしその代償として、使えば使うほどにその視力を失うことへと繋がっていくという魔術...
───何故だ。
あの廊下に程近い場所にいたのであれば、女を部屋の中へ放り、自分達を見捨てて自身だけが逃げることだってできたはずだ。
いくら軍人とはいえ、今ここにいるのは人間ばかり。
過去の凄惨な歴史を振り返れば、今のルーカスが身を挺してショーンは達を守る義理など何もない。
「...俺がみんなを守りますから、安心してください」
「...っ...、」
信じられないと言った様子でショーンは瞠目するが、ルーカスが紡いだその言葉には、軍人としての誇りと覚悟が滲んでいるような気がした。
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