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轟々と音を立てて部屋の中が焼き尽くされる。
先程まで煌びやかに装飾されていた戸棚も、壁にかかっていた立派な時計も、燃え尽きる前にがたんがたんと大きな音を立てて床へと落ちてゆく。
衝撃で割れた窓からは真冬の風がびゅうびゅうと吹き込み、燃えかけているカーテンの切れ端を飛ばした。
「....、」
「...は、ぁ..っ...、」
「ルーカス!大丈夫か!」
「...中尉、...はい、なんとか。...間に合ってよかったです...」
ぱちぱちと音を立てて部屋が燃えている中、一瞬の業火は幾分かマシになり、それを見届けたルーカスは糸が切れたように結界を解除してぐらりと体が傾く。
今までショーンに覆い被さっていたノイは部下のそんな姿に慌てて駆け寄ると、その身体が地面に伏せる前に身体を受け止める。
「...その魔術は使うなと言っただろう...」
「何言ってるんですか、今使わなきゃ俺の存在価値が無くなっちゃいますよ」
「...、...ルーカス。すまなかった。俺の判断ミスだ。彼女がここまでする気だと考えて拘束すべきだった...」
「それは俺の責任でもあります、中尉はなにも悪くない」
腕の中で弱々しくもノイを気遣うルーカスに、ノイは後悔の入り混じった感情で何も言えずに唇を噛み締める。
扉付近には先程まで憎悪の感情を露わにしていたはずの女の黒く焦げた死体が転がっていて、自分が判断を誤りさえしなければあの女がこんな暴挙に出ることもなかったかもしれないと、また悔しさが押し寄せる。
「...中尉、とりあえず任務は成功です。あとはまだ燃えてるところを消火して...これ以上被害が広がらないようにしないと...」
「...あぁ、すぐに対処する。..ルーカス、まだ目は見えているか」
「はい、泣きそうな顔して俺を見てる中尉の顔がばっちり」
「...っ...、そうか、それならいい」
こんな時でも普段の調子を保って会話を続けるルーカスにノイは安堵したように胸を撫で下ろすと、すぐに崩れたベッドの横でその様子を伺っていたショーンへと声を掛ける。
「...大尉、至急本部へ連絡を。早急に事後作業へ取りかかります」
「...、あ、あぁ。わかった」
ショーンは何も手出しすることができなかった事に悔しさを覚えながらも、無傷で今ここに立っていられることに感謝をして、すぐに腰を上げた。
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