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───...
ドリストの護衛任務の翌日。
セントラル軍の本部に併設された、軍事病院の一室。
「...ダグラス...?何でここに」
「...っ...、ああ、いや...」
「また文句言いに来たんなら後にしてくださいよ。俺今、絶賛療養中なんで」
「...違う、文句などあるわけがない...そうではなくて...」
清潔感のある白いベッドに横たわるルーカスは、突然現れたショーンに怪訝そうに眉を顰めるが、ショーンは歯切れ悪く相槌を打ちながらベッドの脇に置かれた椅子へと腰掛けた。
「...え、何ですか。文句じゃないなら一体...」
「...いや、その...君に謝罪と感謝を伝えたく。先程コリンズから君が目覚めたと聞いたから、ここに来てみたんだ」
「...は?....あぁ、え?...ダグラスが俺に...?」
「呼び捨てにするな、私はこれでも上官だぞ」
「えっ..と、はい。すみません...」
今のショーンにはいつもの高飛車な雰囲気も、ぞろぞろと連れ立っている囲いの人間もいない。
そんな普段と様子の異なるショーンに、ルーカスは戸惑いつつも視線を合わせた。
するとショーンは、ぽつりと小さな声で言葉を漏らす。
「...何故逃げなかった?」
「...は?」
「あの状況なら、自身の命を最優先に考えるだろう。居合わせたのは人間ばかりだし、いくら君が統合軍の軍人とは言え、命を張ってまで助ける義理はないはずだ」
「...ああ。...何故って..」
単刀直入に問われた質問に、ルーカスはなるほどと頬を掻き、病室の窓から見える雲ひとつなく澄み切った青空に視線を移す。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「そりゃ、俺には夢がありますから」
「...夢?」
「ええ。...俺には子供がいます。最近生まれたばっかりなんですけど。その子供には、俺たちのような種族間のいがみ合いで、つらい思いなんてさせたくない。...より良い未来を作りたいなら、そこから自分が逃げてなんていたらだめでしょう」
「...しかし、」
「それに、俺は中尉の傍にずっといましたから。貴方も任務を通してわかったでしょう、あの人は種族間の本当の意味での共存を掲げて本気で立ち向かってる。俺はそんな姿を間近で見て、人間にだって良い奴はいるんだと思い知らされました」
ルーカスはそう言ってからりと笑うと、驚いたように自身を見つめているショーンに再び視線を合わせた。
「...種族間の違いなんて、本当は些細なものなんです。真っ向から向き合って、助け合って、互いに腹割って話せば、きっとそこには明るい未来があります。俺はそんな未来を作ろうと躍起になってる中尉の力に、少しでもなりたい。そう思っただけですよ」
「...」
「ま、あの人融通聞かないから上官の立場からしたらやりづらい事この上ないって感じですけどね。そこが良いところでもあるんですけど、中尉まだまだガキだから。はは」
ノイとルーカスの間には、種族の壁を超えた信頼関係が確実に築かれている。
今回の任務を通して、自分の実力不足も、信念のなさも、今までのやり方も、全てが中途半端であったことを痛感した。
「...そうだな。私も今までを見つめ直し、今後を考え直すきっかけになった。...ひとまず今回は助かった、ありがとう。...そして、今まで理不尽に強く当たってしまって悪かった」
「はは、良いっすよ別に。慣れてますから。...でも、大尉も中尉の良さがわかっちゃったか。ちょっと寂しいですね」
ルーカスは持ち前の明るさで冗談めかしく言葉を続けると、満足げに笑みを浮かべた。
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