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───...
「では見せてもらおうか。この演習でのプログラム、取り入れるべきところがあると判断すればセントラルに持ち帰るつもりだ。さっさと始めてくれ」
翌朝、アビスフォースの拠点に設けられた演習場には支援班を含めた魔族たちがぞろぞろと結集している。
その中心には視察を申し出たレミノが控えており、隣に立つスレイドにそう声を掛けた。
───...こいつが、父さんを...
いざ目の前にすると、過去の凄惨な記憶と共にこの男が打ちひしがれる父親を前にして口にした冷徹な言葉が脳裏に鮮明に蘇る。
しかし過去とは決別した。
今はノイに言われた通り、この視察を滞りなく進めることが求められている。
「...ええ、では早速。後方支援第1班と3班、前へ。通常と同じ演習をお願いします」
「...チッ...、何で人間なんかに見られながら...」
「思うところはあれど、今日は文句はなしです」
「...わかったよ。...タイラー、組み合わせは任せる。始めんぞ」
「はいよ班長」
演習に参加する隊員からは不満の声も上がるが、スレイドの制する声にそれ以上反論することもなく歩みが進められる。
出揃った隊員たちは互いに決められたペアに向き合うと、スレイドの「始め!」という号令と共に砂混じりの地面を勢いよく蹴った。
◇◇◇
「...ほう。やはり支援班とはいえ、魔術を伴う演習というのは活気に溢れているな。見栄えがいい」
「...」
「おい獣人。お前はアビスフォースの隊員だろう、この後はうちのダグラスと手合わせをしろ」
「...え?...いえ、しかし...」
「ダグラス、セントラルにノウハウを持ち帰るには懸念点も洗い出しておかなければならない。実際に戦闘して、その経験を後で報告書に起こしておけ」
「...はい、承知致しました」
レミノからの突然の指示にショーンは戸惑うものの、すぐにそれを承諾する。
スレイドに視線を向ければ遠慮がちに会釈され、随分と腰の低い魔族もいるものだと考えながらショーンも小さく頷いた。
◇◇◇
第1班と3班による演習が終わり、各々言葉を交わしながら演習場の場外へと捌けていく。
ガラフはそんな魔族たちを横目で見送りつつ、新たに舞台へと足を踏み出したショーンとスレイドを交互に見遣って、手元にある書きかけの視察報告書に視線を落とした。
「...ニアム上級軍曹、だったか。手加減は不要だ。いつも通りの手合わせを頼む」
「...しかし..、」
「遠慮は無用。実際の演習を身を持って体感しなければ視察の意味をなさないんだ。それくらいわかるだろう」
「...。承知致しました」
ショーンは目の前に控えるスレイドにそう声を掛けて、自身の所帯している刀剣を抜き取る。
そしてそれを身を低くして構えた時、ふいにスレイドの耳がぴくりと動き、すぐに演習場の入り口付近へと視線が移る。
その視線の先を追えば、そこにはノイがこちらを驚いたように見つめていた。
「...ふ、...丁度良い。」
「...え?」
「いや何でもない。始めるぞ」
「...は、はい!」
演習場に姿を表したノイに見守られる中、ショーンはスレイド目掛けて一気に駆け出した。
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