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「...コリンズ」
「はい、何でしょうか」
食堂でガラフと食事を共にし、午後から再び演習場へと戻ろうとしていたその時。
背後から声を掛けてきたのはデルタだ。
「あ、隊長さんだ。にしてもすげぇよな、アビスフォースの隊長ってもっとおっさんがやってんのかと思ってたわ」
「...は、随分と馴れ馴れしい人間だな」
「ガラフ、デルタはこう見えても少佐だぞ。敬語を使え」
「ああ、そっか。すんません、俺そういうのめっぽう苦手で」
「おい、「こう見えて」は余計だろ」
「これは失敬。...ガラフ、とりあえず先に演習場へ行ってくれ。引き続きあちらはスレイドに任せることにする」
「はいよー」
ノイはガラフの相変わらずな態度を咎めつつ、ひらりと手を上げて去っていくその後ろ姿を見届けてからデルタへと向き直った。
「...それで、何の用でしたか」
「ああ。...エルマー達の任務の件でな。先程現地の制圧を完遂したとエリックから報告を受けた。あいつらも予定より早く帰還するとのことだ」
「なるほど、承知致しました。しかし彼らに例の件を共有するにも、今は都合が悪い。視察が終わるまでは迂闊に動けませんね」
「その件でも1つ共有したい。昼前にゾフィアから研究所らしき建物に組織の人間が入っていったと連絡があった。...視察があるとはいえ、こちらのほうが優先度は高いだろう」
デルタの話に、ノイは驚いたように目を見開く。
それはつまり、組織が保有する研究所の所在が割れたということ───
デルタがこの先に続けようとしてある言葉を察し、ノイは伏せていた視線をデルタへと向ける。
「...視察については俺と中佐でどうにかする。だからコリンズ、あんたはとり急ぎここに書いてある場所に向かえ。悪いが調査班を向かわせている時間はない。エルマーの所からはブラーグをそのまま寄越してもらうよう話は付けてあるから、現地に着き次第合流しろ」
「...承知しました。今回はグラベル曹長と2名体制での任務となるわけですね」
「ああ。指揮はあんたに任せる。...頼んだぞ」
「...はい」
急遽決まった任務。
その全貌は今の時点では何一つわからないと言ってもいいだろう。
しかし何であれ、「イクリプス計画」と呼ばれる得体の知れない計画の何かしらの情報が得られるまたとないチャンスだ。
ノイはデルタから受け取った紙に書かれた今回の目的地に視線を落とし、さらりと隠された右目を撫でた。
◇◇◇
「...ダグラス中佐」
「..、どうした?」
行き先を確認した後、第6区を離れる前にノイは演習場の端に控えていたショーンへと声を掛ける。
「...視察については残り3日となりましたが、急ぎの任務が入りましたので後の件はカルディア少佐、ホーキンス中佐に引き継ぎます。サンドラ少将には、北部第2区のゲリラ制圧の支援任務で外すとだけお伝えいただけますか」
「...あぁ、わかった」
よそよそしいノイの態度にショーンもにこりとも笑わず、眉間に皺を寄せたまま小さく頷いて見せる。
直接言葉にせずとも、その話には裏があることはショーンも勘付いていた。
「...それと、明日は研究室にて魔具の視察を行われると聞いています。こちら参考までに現在私が把握している魔具を一覧にしてありますので...」
「...」
「...最後の頁だけは、中佐のほうで処理をお願いします」
「...。...わかった」
おそらくノイから今手渡された書類の中に、ノイがここを急ぎ離れる理由が書かれた何かが紛れ込ませてあるのだろう。
多くの目があるこの状況では、こうしてただ話すだけでも気を遣い、素直に心配の色を滲ませることすら叶わない。
ショーンはノイから書類を受け取り、いつものように冷めた態度で早くここを去れと言わんばかりにすぐに背中を向けた。
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