代償

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「...ここか。なんでまたこんな所に...」 任務を終えたブラーグは、てっきりこのまま第6区へと帰還するものだとばかり考えていた。 しかしエルマーから言い渡されたのは「デルタが急ぎここに行けってよ」という随分と投げやりな指示だけで、今は北部第4区のラスタナという田舎町に赴いた。 エルマーが殴り書きしたメモには、『ラスタナの教会前で補佐官と落ち合え。軍服も脱いで、迂闊な行動は避けろ』としか書いておらず、事の経緯を聞いてもエルマーは、妙に神妙な面持ちで「一瞬足りとも気を抜くな」としか言わず、一体なんの任務なのかということすら把握できていない状況だ。 それにセントラルから来る手筈となっているノイについては、場所柄着くまでにはもう少し時間が掛かるだろう。 「...仕方ない、少し時間を潰すか」 ブラーグは小さく溜息を吐いて、せっかくだしどこか景色の良いところで一休みでもしようと町の中を散策することに決めた。 ◇◇◇ 「エルマー。こっちにはいつ戻れる?」 『ああ、今夜中にはそっちに戻れるはずだぜ。それに明日は俺が必要なんだろぉ?ちゃんと仕事はするから心配すんなって』 「そうか。...すまないな、立て続けの任務になっちまって。本当なら明日は家族と過ごす予定だったんだろ」 『...っ....。...な、なんだよお前らしくもねぇ。大丈夫だ。アビスに配属になった時点でそのあたりは覚悟してた。別に気にしなくていいって』 ノイが第6区を立った後、すぐにデルタはエルマーに連絡を入れた。 柄にもなく心配の色を見せれば、エルマーからは気まずそうに言葉が紡がれる。 そして一呼吸置いた後、エルマーは僅かばかりに強張った声色で再び口を開いた。 『それと、ブラーグの件だけどよぉ...何でラスタナなんかに急ぎ向かわせたんだ、あんな辺鄙(へんぴ)な田舎町、俺たちが赴くようないざこざも無いはずだろぉ...?』 「...あぁ。詳しくは視察が終わった後に話す。ひとまずブラーグはコリンズから任務の内容を伝えさせる。お前は視察だけに集中しろ」 『いや、でもよぉデルタ...、』 「なんだ、何か気になることでもあるのか?」 『....そういうわけじゃ、ねぇけど...』 何故か懐疑的な態度を示すエルマーに、デルタはここまで他の奴の任務を気にするとは珍しいなと眉を寄せる。 しかし最後の問い掛けにエルマーは煮え切らない相槌を打ったかと思えば、「別にただ少し気になっただけだ」と続けられ、エルマーにもいよいよ配下の隊員の様子を気にするチームをまとめるだけの自覚が芽生えてきたかとデルタは納得した。 「とりあえず明日は頼んだぞ。こちとらただの視察じゃねぇんだ」 『....あぁ、わかった』 デルタはそれだけ言うと通信を切り、明日に向けてまた準備をしなければと忙しなく腰を上げた。
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