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「ここだよ、僕の家!もう兄さんも帰ってきてるかな...」
「...ここですか..」
いつの間にか先導する形でブラーグの先を行くレオナを追いながら案内された先は、「家」と言うにはあまりにも粗末な造りの代物だ。
トタンの屋根と壁に所々錆びて穴が空いており、そこからは中の灯りがゆらゆらと漏れている。
決して裕福な暮らしをしているとは思えないとその身なりから思っていたが、それもやはり間違いではなかったらしい。
そんな事実にどこか気後れするものの、ブラーグは自分には関係のないことだとその背中に声を掛けた。
「...じゃあ俺はこれで」
「え、もう帰っちゃうの?うちに寄っていけばいいのに!」
「は?...いや、俺もここに遊びにきたわけじゃ...」
「レオナ?帰ったのか?」
この後には任務も控えている。
そう考えて名残惜しそうに手を引くレオナにその説明をしようとした時だった。
ギイと音を立てて開かれた家の扉からは、レオナよりも少しばかり大人びた顔つきの少年が顔を出す。
少年は外に立っていたブラーグに驚いたように視線を向けるが、驚いているのはブラーグも同じだった。
───...複眼族..、
そこにいたのは、その名の通り特徴的な複数の目を有した魔族そのもので、まさか魔族と生活を共にしているとは思ってもみなかったブラーグは大きく目を見開く。
しかしそれも束の間、目の前にいた少年は礼儀正しくすぐに腰を折ってブラーグに挨拶をした。
「...すみません、きっとレオナが声を掛けたんですよね。僕はカノンと言います」
「...え、あぁ」
「見たところ、あなたは鬼人族の方...でしょうか」
「ねぇ兄さん!ブラーグさんね、兄さんと同じで大きい斧を武器にしてるんだ!僕今日も森に行ったんけど、ここまで送ってくれたの!」
どこかよそよそしい雰囲気を纏っていた空間もレオナの明るい声色でがらりと空気感が変わって、その話を聞いたカノンは困ったように笑みを浮かべてその頭を優しい手つきでひと撫でした。
「そうか。でもなレオナ、いつも言っているだろう。魔族には悪い奴もいるんだ、知らない人に声を掛けては駄目だろう。今回はブラーグさんのような優しい方だったから良かったものの、運が悪ければ連れ去られる可能性だってあったんだぞ。それに、森へは一人で行くなとあれほど言ったのに...」
「...もう、兄さんそればっか!僕だってもう子供じゃないんだから大丈夫だよ!」
「...まだまだ子供だろう。ほんとに...」
威勢よく言い返すレオナにカノンは再び困ったように眉を下げ、そのやりとりを呆然と眺めていたブラーグへと再び視線を向けた。
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