代償

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「ブラーグさん、折角ですしもしお時間があれば少しうちへ上がっていきませんか。大したものはありませんが、ぜひともお礼を」 「...あ、いえ..」 「お兄ちゃん、いいでしょ!お願い!少しだけで良いから!」 「...っと、...そうですね。わかりました。...この後仕事が控えていますがまだ時間があります。それまでお邪魔させてもらいますね」 「ああ、こちらへは観光ではなくお仕事でいらしていたんですね。大したおもてなしはできませんが、ぜひゆっくりしていってください」 せがむように腕を引くレオナの後押しに、ブラーグは懐かしい気持ちを思い出しながら、強く出れずに頷く。 そうすればレオナはその大きな目をきらきらと輝かせて、ぱあっと顔を明るくした。 ───... 兄ちゃん!見て、これユーリと一緒に作ったんだ! お兄ちゃん、お兄ちゃん!これを付けたら絶対人間の子達とも仲良くなれるよ!だってこのブレスレット、こんなに可愛いもん! ─── 湖で拾った綺麗な石に穴を開け、細い蔦を通しただけの不恰好なブレスレット。 長年過酷な時を共にしてきた今は、それもぼろぼろになってとうとう石だけが残る形となってしまった。 それでもブラーグは、弟妹からの最後の贈り物を今も大事に肌身離さず持っている。 ブラーグは脳裏に過ぎる記憶に、胸ポケットに大切に終われている石を無意識にひと撫でした。
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