代償

7/56
前へ
/341ページ
次へ
「...レオナ、しっかりしろ!大丈夫か!?」 「...っ...兄さん。ごめん、...大丈夫。ちょっとふらっとして、..最近調子良かったから今日も大丈夫だと思ったんだけど..」 部屋の奥へと駆けつけてみれば、そこには先ほどの元気な姿など見る影もなく力なく床に体を横たえているレオナがいる。 レオナは苦しそうに肩で息をしながら、胸を押さえて顔を歪めていた。 その周りには森や湖で集めてきたであろう琥珀色の石が散らばっていて、そんなことを気に留める暇もなくブラーグはレオナを抱きかかえる。 「...ベッドに運びます。どこにありますか」 「...っ...、ありがとうございます。こっちです」 「うぅ...、兄さん...、胸が痛い、」 「大丈夫だ、待ってろ。すぐに薬を...」 カノンはこんな状況に慣れているのか、手早くブラーグにベッドの位置を示して、自身は玄関横にかけてある古びた戸棚から紙袋を取り出す。 「ほら、早く飲んで」 「...う、ん...」 それから暫くレオナの様子を見守っていたが、数分もすればその表情は落ち着きを取り戻し、ブラーグは突然の出来事に驚きつつも胸を撫で下ろした。 「...彼は病気を患ってるんですか?」 「...はい。実を言うとレオナは昔から身体が弱くて。最近はあまりなかったんですが、たまにこうして発作が起こることがあります」 「...なるほど」 「このラスタナに居住を移したのも、数年前に腕の良い医者がいると聞きつけてのことなんです。ここは終戦後に魔族も受け入れて、働く場所もある。...町の人たちもそうですが、クラーク先生も本当に僕達に良くしてくれています。先生の処方してくれる薬があればレオナに発作が起きてもすぐに対処もできますし」 ───クラーク先生。 先程も出てきたその名前に、ブラーグはてっきり教職か何かだと考えていたが、今の話からすると彼は腕の立つ医者らしい。 レオナの体のことだけでなく、勉強も親身になって見てくれるということは、やはりカノンの言う通り「良い人」なんだろう。 「...病院へは?」 「そうですね、明日行こうと思います。先生からもレオナの病気が治せるかもしれないと以前から話があって、明日は元々その話を聞きに行く予定だったので」 「なるほど...しかし治るんですね、それであれば良かった」 「ええ、何でも先生はとある研究をしているらしく。本当に凄い人ですよ」 そう言ってカノンは、ベッドに横たわるレオナに優しげに視線を向け、その髪を労るような手つきで撫でた。
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加