代償

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───... 「おいメルドラ、73番の様子は?」 「...ああ、オーフェンさん。今は鎮静剤で眠っていますよ。...しかし焦りましたね、毎度のこととはいえ、こうも毎回暴れられたらこっちの身が持ちませんよ」 「は、まあそれも致し方ない。明日はジャンロンさんもここに来ると言っていたし、少しはあのも人間らしさを取り戻すだろう」 「...え?ジャンロンさんが?...最近多いですね。でもジャンロンさんが来るってことは、明日からは安泰ですね!」 ラスタナの森の奥深くに位置する研究施設の一室。 武器を手にした男達は、そう言って会話を続ける。 「そろそろ飯の時間だな。...眠っているうちに届けてこい」 「...了解です。起きなきゃいいなぁ」 上司である無精髭を蓄えた屈強な男に部下は小さく嘆きを漏らすと、薄暗い廊下へと姿を消していく。 そんな部下の姿を見送って、男はすぐにデスクの上に置かれた受話器を手に取った。 ◇◇◇ 「...うん、そうしてくれるかな。なるべく早いほうがいい。今回もよろしく頼むよ。...あぁ、それと一つ情報があってね、僕も...」 サミュエルは各地区に散っている組織の人間からの連絡に、その顔に笑みを浮かべながら電話を切る。 そうすれば、その背後からすぐに声が掛かった。 「サミュエル。今の電話、例のラスタナの件か?」 「...うん。被験者を無事に調達できそうだってさ」 「ほう、それは何より。今回ばかりは上手くいくといいが。最近は失敗続きだったろう」 「そうだね。...でもあそこには73番を作ったあの人もいる。過去の失敗も十分に分析したみたいだし、おそらく被験者の相性もいい。きっと大丈夫さ。今までの失敗だって、無駄なことなんて一つもないんだ。...小さな一歩も大きな成果、ってね...それに、今回はこの件以外にも楽しみがあるし」 サミュエルは意味ありげに笑みを浮かべながらそれだけ言うと、定位置である革製のソファに腰を落ち着ける。 そしてそのまま、いつものように身体を預けて寝転んだ。 それを見た男は鼻を鳴らし、「いい結果になることを祈っている」とだけ口にして部屋を後にした。
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