代償

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「あ、お兄ちゃん!」 「...!レオナ。もう体の方は平気なんですか?」 「うん!今日も先生に診てもらったし、今は何ともないよ!」 「そうですか、それなら良かった。でもあまり無理は...」 「ねえ、それより見て見て!これ!」 施設の周辺の探索を終えた後、ノイとは別行動で町民に聞き取りを行うこととなり森の近くで別れた。 そしてブラーグがちょうど町へと戻ってくれば、カノン達の家の近くでレオナに声を掛けられる。 レオナは昨日の出来事など無かったかのように元気そうに見えるが油断は禁物だ。 そう思って言葉を紡ごうとすれば、またしてもレオナの明るい声色で遮られる。 その手には、琥珀色の綺麗な石が紡がれたアクセサリーのようなものが握られていた。 「...これは?」 「あのね、ちょうど明日兄さんの誕生日なんだ!その時にプレゼントとしてこのブレスレットを渡そうと思って。今朝やっと完成したんだよ」 「なるほど。きっとカノンも喜びますね、レオナが気持ちを込めて作ったものなら尚更だ」 「えへへ、だよね〜!ほら、この石...兄さんの目とおんなじ綺麗な色でしょ?僕兄さんのキラキラした大きな目が大好きだから、一生懸命森とか湖で探したんだ!」 ───だからレオナはあの場所に一人で... 兄に咎められながらもそれを聞くことなく、一生懸命に大切な人を喜ばせようと純粋な気持ちで動いている。 そこにブラーグは過去の記憶を重ねて、その大きな手をレオナの頭へと乗せた。 「でもねレオナ、お兄さんは君のことが大事なんだ。レオナにもしものことがあったら悲しんでしまいます。だからこれからは一人で森で行くようなことはしちゃだめですよ」 「...うん、わかった。ごめんなさい」 ブラーグの言葉に素直に頷くレオナにブラーグは優しげに笑みを浮かべて、その背後に現れた兄の姿に視線を向ける。 「ああ、ブラーグさん。レオナがいきなり走り出すから何かと思えば...」 「...はは、兄の苦労は絶えませんね。今日は先生に話を聞きに行ったんですよね?上手く纏まりましたか?」 「ええ。やはり話を聞いてみて、少しでも良くなる可能性があるならそこに賭けてみようと思いました。明日、また先生のところへ行く予定です」 「そうですか。...それにしても明日...また急な話ですね」 「他にもこの話を待っている方がいるらしくて。先生もなるべく早い方が良いとおっしゃっていたので」 カノン達とはその後も二、三言の言葉を交わして、ブラーグも自身の任務があるためその場を後にする。 とにかく、あの仲のいい兄弟がこれを機に良い方向へと歩み出せるのであれば良かった。 そんなことを考えながら、ブラーグはその顔に穏やかな笑みを浮かべた。
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