代償

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「少佐、ここです」 ブラーグに連れられてやってきた先は、街の外れにある小さな家だ。 しかし着いてはみたものの、ブラーグは不安げに眉を顰める。 「...明かりがついていない。いないのか...?」 時刻はまだ20時過ぎ。眠るにしても早すぎる。 ブラーグは恐る恐るといった具合で、その不格好なトタンの扉を叩いた。 「...カノン、レオナ...!いないんですか?すぐに出てきてください」 外からそう声を掛けてみるも、中からは一向に応答はない。 しかし事は一刻を争う状況だ。 ブラーグは背後に控えるノイを振り返り、小さく頷いた。 心許ない鍵の掛かった扉に手を掛けると、それを思い切り手前に引く。 魔族であるブラーグの力を前にして扉はすぐに開くので、家の中へと足を踏み入れた。 「...いません...、」 「...時期が早まったか。ブラーグ、例の医者の元へ行きましょう。既に彼らと合流し、事が進められている可能性があります」 「...、わかりました!」 ◇◇◇ 例の治療の件で動きがあったのは、昼過ぎ。 ブラーグに会った直後のことだった。 至急町の病院へ来るようにと呼び付けられたカノンはレオナを連れてクラークの元を訪れた。 話の内容は明日進められる予定であったレオナの治療に関する件で、早く着手することに越したことはないと明日を待たずして治療が執り行われる運びとなった次第だ。 「先生、森の奥にあるのは製薬会社の工場なのでは?何故そんな場所に...てっきり市街の病院へ行くものだとばかり...」 「心配はいらないよ。あそこは研究施設でもあるんだ。そこでは最先端の研究が行われていて、レオナ君の病を根絶させるための十分な設備も整っているから」 「...そう、ですか」 「兄さん兄さん!なんかわくわくするね、僕こんな森の奥まで入った事なかったから」 「...レオナ」 クラークが先導する形で、普段は足を踏み入れることのない薄暗い森の奥深くを慎重に進んでいく。 相変わらず無邪気な様子ではしゃいでいるレオナを横目に、カノンは不安を抱えながらも信頼するクラークの後をついて行った。 そして暫く歩けば、大きな白い建物が見えてくる。 「...あの方達は警備の方ですか...?随分と厳重に管理されているんですね」 「ああ。先ほども言った通り、ここでは最新の技術や研究途中の新薬を扱っているからね。それを盗まれたりしたら大変だろう。ほらおいで、既に君たちの治療に関する準備は整えてある」 「...あ、はい。レオナ、早くこっちへ来い」 「はーい」 少し離れた所で、森の中に興味津々といった具合できょろきょろと辺りを見回していたレオナにそう声を掛け、カノン達は初めて入る施設の中へと足を踏み入れた。
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