代償

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「では、レオナ君。君はこちらへ」 「え?うん、わかった」 施設に入ってすぐ、長く薄暗い廊下を進んだ先でクラークはふと足を止め、レオナにそう声を掛ける。 レオナは普段入ることのない施設の中をわくわくとした様子で見回していたが、扉の前に立っていた男にクラークがレオナを預けようとしたところでカノンは驚いたように声を上げた。 「...先生、?」 「カノン君、君はこのまま私に付いて来なさい」 「...しかし、..僕はレオナに付き添うつもりでここに...」 「いいから。心配しなくともまたすぐに会えるさ。ほら、早速レオナ君の治療に取り掛かるから」 「...はい、」 少しばかり自分の想定と異なっていたとはいえ、今はレオナの治療を最優先に考えなければならない。 カノンは不安げに瞳を揺らすも、クラークの言葉に小さく頷いた。 そんな時、外を出歩き冷え切ってしまっていた指先にぬくもりが重ねられる。 「...っ...」 「兄さん、僕もう子供じゃないもん。一人でも大丈夫だよ。兄さんは終わるまで待ってて!元気になって帰ってくるから」 「...レオナ..、」 「あ、そうだ...。兄さん明日誕生日でしょ?今日から治療が始まっていつ終わるかもわからないから、先に渡しておくね。はい、これ...」 そう言ってレオナは、ズボンのポケットからキラキラとわずかな光の中でも輝くアクセサリーを取り出してみせる。 カノンがそれを受け取ると、レオナはいつもと同じ無邪気な笑顔を顔に浮かべた。 「頑張って森で集めたんだ。ほら、兄さんの目と同じ綺麗な色の石。いつも僕のそばにいてくれてありがとうね」 「...っ...、レオナ。ありがとう、大事にするよ」 常日頃からレオナは明るく健気で、今日もこうして不甲斐ない兄を想って眩しいほどの笑顔を見せてくれる。 カノンはいつだって、この笑顔のために今までの辛い出来事も何度も乗り越え、頑張ることができていた。 カノンはそんなレオナを前にして、自分が弱気でどうすると気持ちを奮い立たせた。 血は繋がっていなくとも、僕たちは家族だ。 レオナのことが何よりも大事で、それはこの先も変わらない。 この病を断ち切れば、レオナも今まで以上に明るい未来を送ることだってできる。 レオナとの束の間の別れにカノンは重ねられていた手をくるりと返して、その小さな手を優しく握り返した。 
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