代償

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「ねぇねぇ、治療って何をするの?痛くない?怖くない?すぐ終わるかな?」 カノンとは別の部屋に通されたレオナだったが、部屋の中を隅々まで見て回ったかと思うと、入り口付近に立っているレオナをこの部屋に連れて来た男へと話し掛ける。 男は無邪気に話し掛けてくるレオナに驚いたように肩を揺らすが、少しの間を置いて口を開いた。 「...別に心配することはない。君がやることと言えば、こちらが提供する食事をしっかりと食べることだけだ」 「え、それだけ?なんだ、それなら何の心配もいらないね!あっ、僕ね、兄さんの作るシチューが大好きなんだ〜...色んな野菜が入ってて、あったかくて、優しい味がするの」 「...」 拍子抜けするほど簡単な「治療」の内容にレオナは安堵して再び普段と同じ様子で話を続けるが、それ以降は男から反応が返ってくることはなかった。 ◇◇◇ 「....準備ができたか。わかった、こちらにも人を寄越してくれ。...あぁ」 あれからしばらくの時間が経ち、扉の前に控えていた男が無線で外部の者となにやら連絡を取り始める。 ベッドとトイレしか置かれていない無機質な部屋の中でやることもなく退屈をしていたレオナは、状況に動きがあったのだとその顔を明るくさせた。 「なに?治療が始まるの?」 「...あぁ。先程伝えた通り、これから君には食事をしてもらう。」 「うん、わかった!どんな食事かな、やっぱり治療だから美味しくないんだろうなぁ...。でも僕頑張って食べるよ、早く病気を治して兄さんを安心させるんだ!」 「...」 そう言って明るい声色で希望を滲ませるレオナの瞳に、男は何も言わずにその視線を伏せた。
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