代償

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───... 「始まったか」 「...やはり副作用が強く出ていますね。今回は被験者が死ぬことなく適合すると良いですが」 「慎重に観察しろ。今回ばかりは被験者も選りすぐりの者を選んだんだ。失敗は許されない」 「はい」 ベッドから転げ落ち、助けを求めるかのように扉の方へ腕を伸ばしたまま蹲り動かなくなったレオナを見て、クラークは鋭い眼光を逸らすことのないまま隣に立つ男に声を掛ける。 見慣れた光景は、この先の展開で大きく状況が変わってくる。 今までは失敗続きで、大抵の被験者は副作用を以てその生命を終えた。 しかし過去のデータから算出した自身の予想に誤りがなければ、今回は上手くいくだろう。 クラークは自信ありげにその口元を歪ませた。 「副作用が治まり仮死状態から戻り次第、連絡をしてくれ」 「先生...この場を離れるつもりですか」 「ああ、まだあの魔族の息があったからな。解体して他の被験者にも喰わせて片付ける。そういえば73番の配給も今夜だったか。ちょうどいい」 「....承知しました。しかし73番には先程ジャンロンさんが食事を持って行きましたよ」 「...なに?あいつ、また勝手な事を...。まあいい、こちらは任せた。今回は腕のみだったからな...目を覚ましたら胴体の肉を与え、経過を見るとするか。くく、結果が楽しみだ」 「...はい」 クラークは予期せぬジャンロンの名に眉を顰めるが、最後には嬉しげに口元を歪ませてその場を後にした。 ◇◇◇ 「...やはり警備が厳重ですね。しかし既に彼らも中に連れ込まれている可能性が高い。本来であれば慎重にことを進めるべきですが、今はそんな悠長な事を言っている場合ではないでしょう。いずれは踏み込む予定でしたし、強行突破といきましょう」 「...はい。クラークと組織が何の関係もないと良いんですが...」 暗闇に包まれた森の奥深く。 この場には似つかわしくない白い大きな建物を前にして、ノイとブラーグは茂みに身を潜めてそんな会話をする。 ブラーグの願望とも言える不安の滲んだ言葉にノイはその可能性は低いだろうなと内心考えながらも、ここに来るまでに考えた施設への突入計画を口早にブラーグへと共有した。
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