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レオナが目を覚ますまでの間、クラークは血塗れの容器を片手に天井の低い薄暗い廊下を進み、『073』と掲げられた重い扉を開く。
その先には予期していた通りの人物の姿があり、クラークは片方の眉を意味ありげに吊り上げた。
「これはこれは、ジャンロンさん。またいらしていたんですね」
「...っ..、クラーク...」
「ぐるる.....うぅ...!」
明らかに友好的でない1人と1匹の反応を特に気に留める様子もなく、クラークは頑丈な檻の隙間に容器を差し込むと、そのまま傾けてどさりと中身が床へと落ちる。
その拍子に一緒に入っていた血液も飛び散り、靴の先が汚れるのをアスファルトの床で拭った。
「...何ですか、これは...」
「何って、食事です」
「調理もされていなければ床に放るなど...しかもこれは...魔族の肉なのでは...」
「ええ、その通り。化け物の餌には丁度いいでしょう。しかし困りますねぇ...」
メイメイへの尊厳を欠く応対にジャンロンはきつくクラークを睨みつけるが、それも意に介さぬ様子でクラークは言葉を続ける。
「ジャンロンさん、何故ここに?73番を随分と懇意にしているようですが。口止め料まで払ってどういうつもりです?」
「...っ..、」
「まあそれも仕方ないか。この化け物も貴方も、『同じ』ですからね。化け物同士、気が合うのでしょう」
「...メイメイは化け物なんかじゃ...」
「くく、ご立派に名前まで付けてしまって...。しかしジャンロンさん、この件を上にあげたらサミュエルさんはどう思うでしょう?貴方の処遇、私次第であることをお忘れなきようお願いしますよ」
クラークはそれだけ言い残してくるりと背を向ける。
ジャンロンはそんなクラークの背中を、忌々しげに睨み付けた。
「....きゅるる...」
「...メイメイ、心配いらないよ。だけどもう少しだけ待っておくれ。必ず君をここから助け出すから」
「...きゅぅ..?」
こんな劣悪な環境にメイメイを一人置いておく訳にはいかない。
本当であれば一刻も早くこんな場所から連れ出して助けてやりたい。
それでもこの組織の手段を選ばないやり方を知っているジャンロンは、それが容易なことではないことは理解していた。
しかしジャンロンも今は組織の悪事に率先して手を貸しているとはいえ、完全にその目的に賛同しているわけではない。
自分はただ、この場所からメイメイを救い出すためだけに組織の命令に従っているだけだ。
いつになるかは分からないが、じっと耐え忍べばきっとその機会は訪れる。
そうしたら自分達は、こんなにも邪念に満ちた思惑とは縁のない遠く離れた場所で穏やかに暮らすんだ。
ジャンロンは無垢な目で自分を見つめるメイメイに優しげな眼差しを向けて、檻の中へと差し込んだ左手でその頭を撫でた。
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