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「...少佐...」
「...中に人の気配がありますね」
組織の人間に見つかることなく幼い兄弟を探していたノイたちは、とある部屋の前で足を止める。
中からは複数人の話し声と、鼻をつくような血の匂いがする。
そんなただならぬ雰囲気を醸す一室に、ノイは最悪の事態を想定した。
もしかしたら、既にあの兄弟は───
「...少佐。中へ入って奴らを制圧し、レオナ達の居場所を吐かせましょう...!」
ブラーグはそう言って背負っている大きな斧へと手を伸ばそうとするが、それをノイは静かに制した。
「...今ここであの扉を強行突破などしたら、私たちの存在が露見しかねない。どう考えてもリスクが高すぎます、誰かが出入りするまで待つべきだ」
「しかし..!事は一刻を争います...お願いします少佐、あの子達の命が掛かっているんです」
「....」
ブラーグの言葉に、ノイの中には迷いが生じる。
組織は子供を攫い、ここで良からぬ実験をしている事は確実だろう。
この血生臭さは戦場で嗅ぎ慣れたもので、さして時間も経っていないように思える。
ここ最近で行方がわからなくなった子供は4人。
そして魔族で名前が挙がったのはカノンのみ。
仮に魔族を喰わせるのだとしたら、真っ先にその矛先が向くのは唯一の魔族であるカノンに対してだろう。
そう考えれば自ずとこの不穏な状況の先行きも見えて、ノイはぎりりと拳を握り込んだ。
「...わかりました。中に突入次第、1名を拘束し少年達の居場所を吐かせます。しかしそれをすれば確実に私たちの存在は組織に露見する。...少々手荒にはなりますが、覚悟してください」
「...はい!」
ノイの言葉にブラーグは力強く頷き、覚悟を決めて今度こそ背中にある大きな斧を手に持った。
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