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「...北部に、ですか...」
「ああ」
重厚感のある木目のデスクで優雅に珈琲を啜っている男は、不服そうな反応を示した青年に視線を合わせる事もなく短く相槌を打つ。
納得がいかないと思わず前に足を踏み出せば、その冥い瞳が青年を真っ直ぐに捉えた。
「上からの命令だ。異論は認めない」
「...しかし、それはつまり...」
「ああ、左遷だな」
───左遷....
何故、この俺が。
青年こと、ノイ・コリンズは、歴代最年少で少佐の地位まで昇り詰め、次の昇進だって噂されていた男だった。
しかしながら今し方言い渡された「辞令」は、そんな未来を打ち砕くようなものでしかない。
ノイは理不尽すぎる通達にぎりりと奥歯を噛み締め、気を抜けば睨みつけてしまいそうになる視線を必死に伏せた。
「まあ仕方がない。言わなくてもわかっているだろうが、この前の件が響いた。当然の結果だな」
「...しかしあれは、ダグラス中佐が魔族に対し...」
「ああ。わかっている。しかし上の命令だ、お前だって軍の狗だ。致し方ないことくらい理解できるだろう」
「....」
───ショーン・ダグラス。
階級は中佐、資産家で国の有力者であるデイビッド・ダグラスの次男坊で、コネでその地位を得た所謂どら息子だ。
奴は先月、その立場を利用して中央部ではまだ肩身の狭い思いをしている魔族に対し、私欲を満たすためだけに不当な取り締まりを行っていた。
そんな行為を正義感の強いノイが見逃すはずもなく、相応の処罰をと上に報告したのが原因らしい。
「お前は真面目すぎる。この先もっと上を目指したいならその辺も上手くやらなければいけない。媚を売って、多少の事には目を瞑れ。何度も言わせるな」
「...そんな腐り切った考え、...私には到底理解できません」
「相変わらずだな」
中将は呆れたように深くため息を吐き、今のは聞かなかった事にするとだけ呟いて視線を手元に落とした。
そしてひらりと目の前に紙切れが差し出される。
「ノイ・コリンズ少佐、本日付でセントラルにおける任を解し、ノース....第6区への異動を命ずる」
「...っ...」
「健闘を祈る」
軍に所属して10年目の転機、ノイにとって波乱の幕開けとなる。
そんな気がした。
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