閑話 たわし頭の朝

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閑話 たわし頭の朝

 6時に掛けた目覚ましが鳴っている。  「うーん、朝か……」  俺はそう言って横倒しになりながら目覚ましを止める。  しばらくその姿勢でいる。  こうしてだらーっと出来るのは、朝の自主練のお陰だ。  家の手伝いが必要な時は、5時には起こされるから……  いかん、起きよう。  ガバッと身を起こし、ジャージに着替える。  誰も居ない台所に行ってTVを点けると、情報番組の占いコーナーだ。  10月生まれの俺はてんびん座。  今日の運勢は7位。良くも悪くもない。ただなあ、いい事だけ放送してくれればいいのに、何だ? 「大事な友達とケンカするかも」ってのは。部活でケンカになるってことか? いや、そんなことはない、ない。  雰囲気が険悪になっても、翔太がけっこう上手く仲裁してくれるしな。 「すぐに反省して謝るのが吉」って……俺はけっこう自分に非があったら認めているし、謝る時は謝ってる。  滅多に会わないアイツみたいに……理屈をコネて煙に巻こうなんてことはしないようにしている。  何でアイツはあんなに頑ななのか、それがさっぱりわからない。  一言済まなかったって言ってくれるだけでいいんだけどな。  テーブルの上に出されている袋入りのレーズンロールを、牛乳で流し込む。  6個全部流し込んだら洗面所に行って歯を磨く。  軽トラのエンジン音が聞こえたので洗面所の窓を開けると、家の裏手の畑で兄貴が軽トラで資材を置いて回ってるのが見えた。  今日は兄貴の嫁さんは一緒じゃないのかな?  母屋の隣の兄貴たちの家で休んでるんだろうか。つわりが重くなってきたって兄貴がこないだ言ってたしな。  俺とは10も年が離れた兄貴がきれいな嫁さんを連れてきた時は驚いた。他の若手農家はなかなか嫁のなり手がいないって嘆いてるらしいから。まして一緒に農業やってもいいって人はいないって話だし。嫁さんとは大学で知り合ったらしいから、やっぱり大学の農学部まで行ったら違うのかも知れないな。  ちょっと兄貴の嫁さんを見るとドキドキするのは内緒だ。  この家は兄貴が継いでくれるから、俺は自由にしていいって言われてるけど、まだ将来どうしようとか考えられるもんじゃないな。県大会でいい成績だったら、サッカーにもっと打ち込めるところに行くっていうのもアリかも知れない。    うがいをして歯磨きが終わったら台所に戻ってTVを消す。  時間は6時34分だ。  消した瞬間に時刻が6時35分に替わったのが見えて、何か得をした気がする。  画面のキャスターも見えなくなった気がしたけど気のせいだろう。  さて、部員の誰よりも先に学校に行って、自主練の準備をしておくか。  ウォーミングアップ代わりに走って学校まで。  っとと、いっけね、宿題やったノートと教科書、机の上に忘れてきたわ。  数学の岡野はインケンだから、何言われるかわからない。  新興住宅地の辺りで気づいて、俺はまた5分ほど走って家に戻った。  自分の部屋の机の上の教科書とノートをカバンに入れる。  兄貴の軽トラのエンジン音はまだ畑で聞こえる。きっと今日も戻るのは7時をけっこう過ぎてからだな。  そんなことを考えながら、また玄関を出る。  今日は翔太と一緒ぐらいの時間になるかも知れないな。  まあ、それでもいいか。
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