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視力デバイス
視力低下、近眼、乱視、老眼、弱視、色盲、加齢黄斑変性症、動体視力……etc.
視力に関するあらゆるお悩みは、当店の視力デバイスがキラッとクリアに解決します!
最短1泊2日から、長期レンタルも可能です。お得な定額コースもご用意しております。
まずは、お気軽にご相談ください。
スタッフ一同、ご来店をお待ちしております!
レンタル・1
東京都××区××2丁目6-4 ベウラビル1階
03-×××-××××(Open 15:00-25:00)
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こんなアヤシげなチラシを見て、本当に来店する人がいるなんて思っていなかった。いや、訪れたお客は、それだけ切羽詰まっているってことかもしれない。
「……という訳で、このデバイスを眼球に装置します。痛みも違和感もありませんし、装置しっぱなしでも雑菌に感染する危険性は全くありません」
カウンター奥の個室から、店長の説明がボソボソと漏れ聞こえてくる。
「本当に……この目が回復するんだろうね?」
「ええ。使い心地にご満足いただけなければ、代金は全額お返しします」
「それじゃあ……1週間、お願いします」
「ありがとうございます。では、こちらにサインを……はい、結構です」
入店から半時ほどで、男性は「視力レンタル」の契約を結んだ。カウンターの前を通り過ぎるとき、あたしに小さく会釈して、彼は日常に戻って行った。
1週間後――。
「お~い、小椋ちゃ~ん」
エプロンを付けて受付に向かう途中で、気怠げな声に呼ばれた。カウンター奥の個室に行けば、いつも通り長袖シャツに細身のパンツ――上から下まで黒ずくめの店長が、沼底のヘドロのように来客用のソファにへばり付いている。
「それ~、クリーニング頼むわ~」
テーブルの上に、黒いプラスチックケースが乗っている。貸し出していたデバイスが返却されてきたのだ。
「はーい」
あたしはケースを掴んで、隣室に入る。ここは、通称「暗室」。壁のスイッチで天井のブルーライトを点し、棚の洗浄キットを作業台に下ろす。キットの中から洗浄装置を取り出し、真新しい洗浄液をたっぷり注ぐ。次に、黒いケースからピンセットで視力デバイスを摘まむ。半球状のシート型のデバイスは、お客の望む能力を与えたために消耗し、水に濡れたビニール袋のようにフニャフニャになってしまった。水晶に似た半透明の輝きも失われ、白っぽく濁っている。洗浄液の中に投入すると、細かな泡がプツプツと表面に現れた。バイザーに密閉ロックを施すと、あたしは部屋の奥にあるリクライニングシートに身を沈める。深呼吸を1つして、自分の両目を覆うように、バイザーをセットする。後頭部でバンドを固定すると――視界が真っ白な光に包まれた。
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