誰も知らない一家

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誰も知らない一家

 まずは近所の聞き込みからだった。ウィークデーの帰宅時間を考慮して、夕方の六時半から聞き込みを始めたが、のっけからつまずくこととなった。  沼瀬の自宅である赤い屋根の賃貸マンションは一フロア五戸の五階建てだ。  賃貸であるということで、居住者が頻繁に入れ替わってしまう傾向にある。沼瀬自身も転勤族で、日本中を巡った末にこのマンションに落ち着いたのは三年半前。沼瀬はたった半年で家族を残して海外へと旅立ったのだ……。  これまでは家族ともども引っ越してきたのだが、さすがに海外勤務となると、単身赴任を選ばざるを得なかった。  入居からわずか半年では近所づきあいなどあるはずもなく、沼瀬本人を知っている者はいなかった。それはべつに不思議なことでもなかった。
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