誰も知らない一家

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(なるほど、これでは依頼者も探偵を頼らざるを得ないわけだ……)  マンションの前の駐車場で煙草を一服くゆらせ、先野はこの案件は最初の印象とは異なり簡単ではないかもしれないと予感する。  だがこういう難しい依頼を解決してこそ優秀な探偵たるもの。そう前向きに捕らえて、日暮れのマンションを後に歩きだした。  ただ、マンションでの聞き込みでなにも得られなかったかといえばそうでもない。隣の部屋で尋ねたところ、その家の主は一年前に引っ越してきたのだが、そのときにはもう隣は空き(べや)だったということであった。  ということは、沼瀬の家族がいなくなったのは一年以上も前ということになる。帰国直前まで連絡が取れていたというから、家族は引っ越しのことを隠していたことになる。
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