誰も知らない一家

5/13
前へ
/62ページ
次へ
 だいたいこの辺りでした、とほんの数回だけ訪れた記憶を頼りに地図を見せ、そんな情報だけで先野は調査に向かわざるを得ない。遠い、ということもあり、これでは沼瀬本人がさがしに行こうとしないわけである。会社を休むことになってしまうし、なんのために休むのかと勘ぐられたくない心理があって、有給休暇を使いにくいのかもしれない。  確かに遠かった。新幹線と特急を乗り継いで、朝に発ったにもかかわらず、もう午後もかなりすぎてしまっていた。  駅弁の空き箱をくずかごに放り込んでJR福知山駅のホームに降り立った先野は、遠いな……とつぶやく。  福知山市。京都の北部に位置し、古来から日本海側と京の都を結ぶ拠点として栄えた。特急列車の窓からも見えた、復元された天守閣も立派な福知山城は明智光秀によって築城され、以降城下町として発展した。市街地には由良川が土師川と合流し、豊かな田園地帯が現代(いま)も広がっていた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加