誰も知らない一家

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 梅雨である。見上げる空には雲が厚く、いつ雨が降ってもおかしくない天気だ。先野の前途を暗示しているかのような空模様だった。  とりあえず駅前の交番で訊いてみた。  地図を見せ、 「この辺りに延尾(のべお)さんという家はないですか?」  延尾は、沼瀬の妻の旧姓である。  制服警官は、書棚からページの折れたゼンリンの地図本を出して広げ、先野の出した地図と見比べ、 「うーん、そういう名前の家は、ないですねぇ……」  と首を傾げる。  いきなり雲行きが怪しくなった。 (何年も前に引っ越したのだろうか……)  この辺りは持ち家率が高い。沼瀬の実家があるという地域もそうで、もし持ち家なら引っ越すという可能性は低い。  それでも確かめなければならないと、先野は警察官に礼を言い、レンタサイクルでそこへ向かってみることにした。
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