誰も知らない一家

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 背の高いビルもない駅前からほんの少し離れると、もう商業地区から住宅地へと変化する。  日本中の地方都市のことごとくが、鉄道の駅前ではなく国道沿いにその賑やかさを移していて、福知山市も例外ではなかった。  市街地だというのに静かで、人通りもほとんどない。  由良川近くまで来て、この辺りのはずだが……と周囲を見回す。引っ越したとしても、憶えている人はいるだろう。手当たり次第に聞き込みをしていけば、たどり着く可能性はあると思った。  家の横の畑で農作業をしている年配の婦人が目に入った。  先野は自転車を停めて、すみませーん、と声をかける。 「ちょっとおうかがいしたいんですがぁ」  聞こえるように、声を張り上げた。  気づいた婦人がかがめていた腰をあげて振り返った。被っていた麦わら帽子の広いつばをあげて先野を見ると、胡散臭そうな目を向けた。
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