誰も知らない一家

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「なんですかねぇ?」  先野は、事務所にいるときのような白い上下のスーツではなく無難な黒スーツを着ていたが、どことなく怪しげな雰囲気が漂っていたかもしれない。ソフト帽だけが白というのが、怪しげさに輪をかけていたというのもあるだろう。 「この辺りに延尾さんという、家はありませんでしたかねぇ?」  相手のいだいた印象など気づくことなく、単刀直入に尋ねた。 「延尾さん? 聞いたことないわねぇ。ここらの自治会には入ってない名前やわ」  最後に沼瀬がこの町に来たのは七年ほど前だと言っていた。家族とともにこの町にやって来たのだ。妻の両親に、当時まだ小学生だった孫の顔も見せたかったし、お盆休みで福知山ドッコイセ祭りも開催されていたし、その頃は大阪の支社に勤務していて大阪に住んでいたということもあって、JR福知山線を使えば行きやすかったのだ。高速道路も使えたし。
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