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家族消失事件
三年ぶりに帰国した日本は、かれにとって見知らぬ国になっていた。
空港からの移動中、なぜか家族につながらない電話を気にしつつも、さほど深刻には受け止めていなかった。
旅行用のスーツケースを傍らに電車の窓から見える町並みは三年前の出国時とさほど違わなかった。赴任先だった新興国は経済成長著しく、見る間に街が変貌していったのに、それに比べて日本は、まるで歳をとった老人のように、どことなく活気が感じられない。実際、高齢化率はこの三年の間に順調にあがっていた。
しかしそれでもかれ――沼瀬由安にとってこの国は故郷であり、五十六歳にして最後の転勤を終えてやっと落ち着けると、期待に心がはずむのであった。
だが……。
そんな気分も、自宅の賃貸マンションに帰り着くまでであった。
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