約束された勝利

3/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 ストロウ共和国は戦争にならないように何度も何度も交渉を繰り返した。 しかし、ペパマシェカラスチ公国は交渉のテーブルには就くものの、怒号混じりにテーブルを叩き、恫喝して黙らせにかかりストロウ共和国に弁解の余地を与えない。根負けしたストロウ共和国は「金で済むなら」と、国民世論の反感を承知で賠償金を払うことで戦争の阻止を図ろうとした。その額、ペパマシェカラスチ公国の国家予算の2倍である。しかし、ペパマシェカラスチ公国は貪欲さの権化。「金で済ますつもりか!」と、開き直った。戦争を仕掛け、ストロウ共和国を支配下に置くことが出来れば国家予算の2倍どころではない程の見返りがあることを知っているからである。ストロウ共和国は世界トップクラスの大国、その国力を全て手に入れる好機を一兵卒を犠牲にして手に入れたのだ。あわよくばそのまま世界の覇権を手に入れられる程の国力が目の前にあるため、それをそのまま見過ごす訳がない。 国家予算の2倍程度の賠償金で妥協してたまるものか。これが、ペパマシェカラスチ公国の独裁者はじめ、貴族たちの総意であった。  交渉は決裂、ペパマシェカラスチ公国は国権の発動たる戦争をストロウ共和国にしかけたのである。先述のようにストロウ共和国は軍事力を一切持っていない。当然、対空ミサイルなぞも持っている筈がなく、戦闘機の侵入を許してしまう。度重なる空襲で国境近郊の町は焦土と化し、黄金の野原たる麦畑も瞬く間に焼畑農業の第一段階へと化した。 戦局は僅か一日で苛烈となり、国難が訪れたと分からせるには十分すぎるものであった。 このままでは首都陥落は時間の問題。ストロウ共和国の首都スケアクロウの大統領府にて円卓を囲んだ作戦会議が行われていた。大統領府の前の道路は母国を捨てて逃げ出そうとする国民の車が列を作り、クラクションが鳴り止まない。  大統領は頭を抱えていた。 「何故にこんなことになってしまったのだ……」 外務大臣が机を怒り混じりに叩いた。これまでずっとペパマシェカラスチ公国との交渉を行っていた立役者である。 「ブラックボックスさえ…… あれば」 財務大臣がやれやれと肩を竦めた。 「全く、あのパイロットの妻に早く遺体を返してやりたいと優しさを出したのが仇になったな。まさか戦闘機まで一緒に返すとはな。お人好しが通用する国ではないと言うことが分かっているのかね?」 外務大臣は悔しさを顔に滲ませて俯いた。戦闘機の回収であるが、クレーンなどの重機を使った大仕事であった。当初は遺体を先に返却し戦闘機の調査を行う予定だったのだが、知らない内に戦闘機の残骸も遺体もペパマシェカラスチ公国へと返却されていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!