約束された勝利

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「彼らは元々、我が国に帰化したペパマシェカラスチ公国人の子らです。初めからそのつもりで我が国に入ったのでしょう。学校教育にて『平和』を教えこむことによって武装放棄の(インプ)(リンティング)み! 他国民に優しくと言う名目で外国語による道路標識の徹底! 種籾や種子の海外持ち出し許可! ここにきて活発に動いているようでした」 成程、工作員(エージェント)を国政に参加させていたという訳か。我が国ではなく、愛する母国のために動くのは嘸や楽しかったであろう。大統領は彼らを信頼して大臣に指名した自分の情けなさと怒りに身を任せて机を叩きつけた。そして、軽い溜息を()きながら皆に尋ねた。 「どう、すればいいのかね。国民皆を守るために私一人の命を差し出して降伏し、講和を結びたいと思う。私はこの国の長として国民の皆を守らなければならないのだ」 しかし、外務大臣は首を横に振った。 「それをすれば隷属化です。ペパマシェカラスチ公国は貴族をヒエラルキーの頂点に置く国家。我が国民はおそらく最下層に置かれるでしょう。農奴となり、人間の自由はなくなるでしょう。ペパマシェカラスチ公国は我々のような農耕民族を祖に持つ者とは違い、狩猟民族を祖に持つ者達! 奪うことで利を得る手段しか知らない蛮族も同然です。相手が蛮族でなければ交渉も出来たでしょう」 「成程、初めから軍事力によって我が国を乗っ取るつもりか。私一人が命を捧げた後は地獄が訪れるというか」 「戦うのも無理、我が国には軍事力は一切ない。徴兵を行ったとて、大した武器も渡せぬ。逃げることしか出来ぬな」 「そもそも、兵の訓練や要請が土台無理な話です」 「他国への救援要請は? ペパマシェカラスチ公国は独裁国家で評判も良くないだろう。他国の兵士の血を流して我が国を守って貰おうと言う考えが甘いかもしれないが、それでも頼らざるを得ないのだ……」 外務大臣は更に暗い顔をしながら俯いた。 「我が国はこれまでの長い間中立国。過去、世界大戦が起こった際にも中立を維持し、穀物の輸出貿易を行ってきました。言わば『どっち付かず』です。こんな国が攻められ、いざ救援を求めたとしても軍隊を出してくれる国はありません。ペパマシェカラスチ公国が覇権国家となる危険性が露見しない限りは動きませんよ…… どの国も」 「自分のケツは自分で拭けと言うか」 万策尽き果て、形勢はいよいよ極めて不利。大統領は頭を抱えた。すると、警察庁長官が申し訳無さそうに手を上げた。
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