あなたの命をお貸しください

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「あーー、暇だなー」 五木修士(いつきしゅうじ)は、自室であるワンルームアパートの一室で、床に寝っ転がって天井を見上げながら言う。 大学の講義もサークル活動もなく、ただ家でぼんやりとしている時間。とにかく暇である。 しかし、暇だからといって積極的に行動を起こそうとは思わない。 暇な時間があるのならバイトでもすればいいのだが、面倒なことはしたくないという気持ちが勝ってしまう。 そうやってのらりくらりと怠惰な日々を過ごして、一年間が終わってしまった。 このようなジレンマを抱えている大学生は、日本中に少なからずいるであろう。修士は単にその一端に過ぎない。 「さすがに、バイトでも探すかなぁ…」 修士はぼんやりと呟いたが、体を動かすことは全くできそうになかった。 そんなときだった。 「お困りのようですね」 突然天井から声が聞こえてきた。修士は驚き、声が聞こえてきた一点を見つめる。すると、天井の中心に突然、黒と紫が混ざったような色の、時空が歪んだ穴のようなものが出現した。 「は?」 修士は思わず声を漏らす。そのままじっと見つめていると、そこから、全身が薄灰色で牛のような見た目の、ツノと翼が生えた化け物が出てきた。 「え?え?え?」 修士はひどく驚き、ただ狼狽えることしかできない。そんな修士に化け物は、優しく声をかけた。 「驚かせてしまって申し訳ございません。しかし、心配なさらないでください。私は怪しい者ではございません。こことは別の世界からやってきた、いたって善良な悪魔でこざいます」 「???」 修士は声を出すことすら出来なかった。ただあんぐりと口を開け、悪魔と名乗る化け物を見つめることしかできなかった。 「五木修士様、私はあなたにぴったりのビジネスの話を持ってきました」 修士の隣に降り立った悪魔は、丁寧な口調で言った。 「ビジネス…?」 ようやく頭が動いてきた修士はそう言うと、起き上がってあぐらをかいて悪魔を見つめた。
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