僕は君の趣味じゃないし、君は僕の趣味じゃない

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『どこで見たんだろ?』  少しだけ緩いパーマがかった茶色の髪を後ろに流して、真っ直ぐにこちらを見る視線。鼻も高いし口角の上がった少し厚めの唇が好印象。うん、大学時代だったら付き合う子には絶対に困らないタイプ。  写真の中の男が何かを語りかけるように、こっちを見ている。ずっと見ていても思い出せない。この眼の形、どこかで見たことがあるんだ。 「失礼しまーーす。」  大きな声とともに、経理部のドアが開けられた。左側からやってきた男を見て思わず社内報を落としそうになり、慌てて引き出しにしまった。入ってきたのは今、顔を確認し頭を捻っていた男、本人だった。 「柿崎部長、金井部長からのお届け物です。」 「おっ、ありがとありがと。」  机に座ってパソコンを立ち上げたばかりの柿崎部長が、モニター越しにこちらに手を伸ばして書類の束を受け取っていた。この男、背が高い。グレーのスーツには皺一つなく、スラックスには今アイロンをかけたばかり、というように一本の縦線が入っている。まだどこにも座ってないのだろうか? 「それでは、行ってきます。」 「おう。頑張れ。」  何やら顧客のことを2人で喋っていたようだったが、その男が部長に頭を下げて徐にこちらを振り返った。 「あ、可愛い子がいる。」 『!?』  歩き出した足を止めたその視線の先には……僕がいた。鈴木さんと伊東さんも顔を上げてこちらを見ている。僕はポッカリと空いた口を閉じてパソコンの画面に視線を合わせ、集中しようとした。 「きみ、渡良瀬君だろ?」  ツカツカと寄ってきて机の横に立ったその男に名前を呼ばれて、顔を上げずにはいられなくなった。近くで見るとそのデカさがわかる。僕は、太ってはないけど伊東さんよりも小さい。女性である鈴木さんが僕と同じくらい。背の高さは、めちゃくちゃコンプレックスなんだ。 「おい、レイ。やめろよ。」 『レイ?』  僕の目の前から伊東さんの声がした。伊東さんは大男に睨むような視線を送っていた。僕の頭の中は大混乱。なぜ僕の名前を知ってる? そして君の名は「レイ」だっけ? 今見たばかりの社内報に何て書いてあったのか、すっかり頭から抜け落ちていた。 「シュウ、お前が言ったんだろ?」 「おい会社でシュウはやめろ。」 「お前が先に言ってきたんだ。」    二人のやり取りを見ていた鈴木さんがクスクス笑いながら、僕にこっそり話しかけてきた。 「あの二人、同期なのよ? とても仲がいいの。でこぼこで漫才師みたいよね?」 「は……はあ。」  社内ではお互いになんと呼び合うのか議論し始めた二人を眺めながら、そんな答えしか返すことができなかった。          
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