僕は君の趣味じゃないし、君は僕の趣味じゃない

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「「かんぱーーい!」」  会社近くにあった居酒屋『呑幸』は焼き鳥が美味しいという評判の店らしかった。『焼き鳥屋』を略して『焼屋』だったんだ。お通しで出てきたアスパラベーコンを前に、伊東さんと嶺さんの声を合図に大ジョッキ3つが触れ合った。 『ビール……大ジョッキ……。』  内心これを飲み干すことができるのか訝りながら、ジョッキに口をつけて飲むふりをする。相変わらず苦い。  20歳になって初めての友だちとの飲み会で、張り切ってガブ飲みしようとした時のことを思い出す。二口喉を通したところで、危うく吐き出すところだった。めちゃくちゃ苦いんだ。そして舌全体ののビリビリとした感覚。 「あれ? 飲まないの?」  気がつくと僕の前に並んで座った伊東さんと嶺さんが半分空になったジョッキを片手にこちらを見ていた。 「の、飲みます!」  慌ててひと口含む。口の中にシュワシュワとした感覚と、苦味が舌の奥の方に広がっていった。 『あ、でも……それほどでもない?』  2年前に感じたほどではないかな? あれから飲み会の席では、誰に何と言われても酎ハイ一択だった。会社の歓迎会では酌をすることで、アルコールにはほとんど手を出さずにやり過ごした。  アスパラを1つ箸で摘んで口に含む。旬がきたのか新鮮なのか、もの凄く太いのに柔くて美味しい。塩胡椒が効いていてビールを飲みたくなった。思い切ってビールをゴクっと喉に流し込む。 『うまいっ!』  えっ? 今までどうして苦手だと感じてたわけ? 今度はベーコンを口に入れて咀嚼しながら、またビールと一緒に喉に流し込んだ。 「ぷはーーっ。」  うまい! 思わず笑顔になったところで前を見ると、空になったジョッキを前に2人がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。 「なんだ、いけるじゃん。もう一杯頼もう。」 「えっ? いや、その……。」  僕はレモン酎ハイが飲みたいんだけど。どう伝えようか言葉を探しているうちに、ちょうど「呑幸オリジナル串焼きセット」を運んできた店員に、嶺さんが生ビールを3つ頼んでしまっていた。 「少々お待ちください。」  紺色の作務衣に茶色のバンダナを巻いた店員が去るのを焦って見送っていたけど、まあいいかと思い直して自分のジョッキを見る。まだ半分近く残っているビールを口に含んで、目の前に置かれた大皿を眺めた。  鶏皮、鶏ももは分かるけど、この黒っぽいものは何だろう? レバー? 明らかに骨が刺さっているだろうと思われる串もある。四角い肉が連なっているのは何の肉? 「渡良瀬君は何が好き?」  黒っぽい串焼きを手に取った伊東さんが話しかけてきた。 「それは、レバーですか?」  知らないものはしょうがない。ここは思い切って訊いてみるべきだ。    
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