アイが正しかった

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口から泡を吹き出して意識を失ったコウスケを見て、ヨウはその場に力なく座り込んだ。 静寂のなか、思い出されるのは彼の最期の言葉だった。 ポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出す。それは、アイの日記の最後の1ページを切り取ったものだった。 『お姉ちゃん。絶対に…復讐などは考えないでください。コウスケ君は、父親や友達の悪い影響を受けてしまっただけで、本当は心優しい人です』 心のどこかで、私は彼の記憶が戻らないか望んでいた。復讐が失敗することを。 『誰かを恨んでも、また悲劇が生まれるだけ。たしかに彼を恨んだ事はあったけど、恨んでいる時間はただ苦しかった。恨むのは自ら死を選ぶ、弱い私だけにしてください』 記憶が失くなった彼は、私の話を真面目に、真摯に聞く人だった。毎日来る私に、気を遣える人だった。 親の地位や名誉を剥ぎ取られ、記憶を失った彼は、友達の言葉に傷つき、悲しむ、普通の人間だった。 ヨウの目から涙が止まらなかった。 嘘で固めた彼との生活の中、正直だったことが一つあった。 病室で、彼を抱きしめた後の、胸のドキドキ。 これは隠すことが出来なかったヨウの気持ちだった。
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