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1 今の俺
「ただいま」
猫のナナと暮らし始めて3年になる。自宅に戻ると、自然に「ただいま」という言葉が出るようになった。
コンビニ横の公園で見つけた白猫だ。いつもなら猫なんて完全無視だが、その時のナナちゃんは、俺にコマンドを出すようにニャアと鳴いた。
”家に連れていけ”
Subの俺は、もちろんコマンドには逆らえない。
まあ、そういうことにしておいてくれ。以降、ナナちゃんは俺の同居人だ。
駅前の大通りから1本入った筋にある自宅マンションは、市内で一番高層で、その上層階に住んでいることは、自分の自尊心をそれなりに満足させている。逆に言えば、そんなことで満足感が行く程度のものが、俺の自尊心だ。自分でも小物過ぎて、全くつまんねえと思っている。
今日は仕事帰りにコンビニに寄った。俺は甘いものが好きだ。それも、イマドキ風なおしゃれスイーツではなく、ぜんざいとかプリンアラモードとか、そういうベタな奴。それを買ってのご帰宅だ。
「おかえりなさい」
「ん」
俺が差し出したコンビニの袋を受け取ったのは、ナナじゃない。ナナはもっと華奢な美人だ。こいつみたいにデカくてモッサリなんて、していない。
「今日は何を買ってきたんです?」
「……モンブラン」
へえ、と言って袋の中を覗いている姿を一瞥して、リビングのソファに座り込んで息を吐いた。
今日は患者数が多くてクタクタだ。可愛いナナの姿を探すと、キッチンの脇のお気に入りのクッションの上から、動こうとしない。愛想が全く無いのも、ナナちゃんの魅力だ。
「佐伯さんも、栗好きなんですか?」
「……別に」
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