改札になった男

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「コウちゃん」 ユイが俺の名前を呼んだ。思わず振り返ってしまう。そこに立つユイは髪に緩くパーマを当ててロングスカートを履いたあの時のユイだった。 「あ、いえ、ごめんなさい」 腰の曲がったユイが顔を下に向ける。 「昔好きだった人に、似ていたもんだから」 好きだった人。 喉が締まる感覚がして慌てて息を吸う。俺はちゃんと、ユイの好きな人だったのか。 「じゃあ」 ユイが俺の横を通って改札へ向かおうとする。 「あの!」 突然大きな声を出した俺に驚いたユイが振り返る。 あの日、一緒にいられなくてごめん、飲み過ぎてごめん、かわいいって言えなくてごめん、傷付けてごめん、太ったっていいよ、もっと怒っていいんだよ、本当に、好きだったんだよ。 「お身体大事にしてくださいね」 ユイは軽く微笑むと、「ありがとう」と言って改札を抜け、人混みに消えた。 誰も喋らないくせに「うるさい」という言葉がぴったりの雑踏をぼんやりと眺める。どうかユイが、これから一生寒い思いをしませんように、つらい言葉をかけられませんように、もう二度と、無理に笑顔を作りませんように。段々と白っぽくなっていく景色の中、五十年以上前からそこにある改札の、ピッという音だけが響いた。
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