改札になった男

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終電が去り、静かになった駅にシャッターの閉まる音が鳴り響く。改札になって15年ほど、やっと俺は、穏やかな気持ちで夜を迎えている。いつもの通りぼんやりと目を閉じた。 「おい」 目の前で男の声がして目を開ける。スニーカーとジーンズが見える。なんだこんな時間に。視線を上げて、目の前の人物を認識したとき、ないはずの身体が硬直したのを感じた。 “俺…?” 「まあな、お前、の姿を借りている俺だ」 なんだかよくわからない。幽霊でも見ているのか。そう思った途端、今まで慣れ親しんでいた暗闇が急に怖くなってきた。 「幽霊じゃない、まあ幽霊と思ってもいいが」 “はあ” 「お前、もう改札やめていいぞ」 “へ?” 意味がわからなかった。俺の姿をした知らない幽霊に、改札をやめることを許可されている。 「わからんか?成仏していいってことだよ」 “はあ…” へえとかはあとかを繰り返す俺に、幽霊は呆れたように続けた。 「成仏記念にな、5分だけ元の姿に戻っていいぞ、んでそれから、上に行ってもらうから」 幽霊はそこまで言うと急に輪郭を失ったようにぼやけて暗闇に消えた。なんだこれ、夢か?改札に生まれ変わること自体がおそらく幽霊以上に異常なことではあるが、突然のことに頭が追い付いていなかった。 改札をやめてもいい。成仏できる。 俺は不思議だった。あんなに望んでいたことが目の前にあるのに、何一つ魅力的に思えなかった。何を言ってるんだ、俺はユイたちをずっと見守るんだよ。そうだな、考えたくもないが、ユイがいつか寿命で死ぬときは、一緒に成仏したいな。
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