改札になった男

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それから何十年が経っただろうか。カエデはすくすくと成長し、中学校の制服で友達と遊びに行ったり、電車で高校に通ったりした。カエデとユイが俺の目の前で喧嘩をすることもあった。俺はハラハラしながらそれを見守っていたが、翌月には仲良く談笑しながら改札を通る2人の姿があった。カエデは就職したようで、しばらくは通勤ラッシュの中でスーツ姿のカエデを見送っていたが、そのうちに一人暮らしを始めたんだろう。カエデの姿は見なくなった。 俺は今生きていたら何歳なんだろう。ユイは一人で寂しくしていないだろうか。ここ何年か、ユイの姿も見ていない。おそらく足腰も弱くなる年齢だ。あまり遠出もしないんだろう。ユイはどんなに歳を取ってもやっぱり可愛かった。きれいだった。生きていた頃、それを伝えられたことが一体何回あっただろうか。どんなに穏やかに日々を過ごせるようになっても根強く消えない後悔のうちのひとつがそれだ。 朝のラッシュがあったから今日は平日なんだろう、そして駅を行き交う人の服装からすると、今は春だ。ぽかぽかした空気が駅の中まで浸透し、誰も彼も冬の緊張が溶けたようなやわらかい顔をして歩いている。俺のちょうど頭上にある時計が12時を示す。
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