贖罪の傘

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 カランカランとベルの音が鳴る。僕が顔を上げると、そこには長身のスーツ姿の男が立っていた。親友である辻本の姿を認め、僕はデータを保存するとパソコンを閉じる。  時計を見ると、二十時を過ぎていた。 「早かったね」 「まぁな」  辻本はそう言って、店内を見渡す。 「今日は客入りが良かったんじゃないのか」 「まぁまぁかな。レンタルメインで、傘は数本しか売れなかった」  僕はそう言いながら、売上金の整理を始める。辻本が減ったレンタル用のビニール傘を補充しようと、倉庫から箱を持ってくるのを見て僕は眉を顰めた。 「僕がやるから、辻本は裏にいなよ」  店の奥には従業員スペースがあって、そこで休憩や事務作業が出来るようになっている。 「二人でやった方が早いだろ。俺はここのオーナーなんだから、手伝わない理由はない」  手を止めることなく、辻本がカッターで手際よく段ボールを開く。中から束になっている傘を出しては、バケツに挿していく。  これ以上言った所で、辻本が手を止めることはない。長い付き合いで、そのことは身にしみて分かっていた。  だけど、今日こそは言おうと決めていたことがある。僕はレジを見下ろしながら、口火を切った。 「……あのさ」  辻本の視線を気配で感じながら、僕は続ける。 「経営的に厳しいんじゃないのか? せめて、レンタルだけでも止めた方が良いと思うんだけど」  毎日出勤しているわけじゃないけれど、雨の日でさえ、あまり儲けが出ていないのだから、天気が良い日はなおさら厳しいはずだ。  そのうえ、利益の出ないレンタル業までしているのだから、傷口に塩を塗っているだけに思えていた。
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