3章:戦闘技能試験・本戦

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「……いやはや、まさか女装趣味があったとは。しかし、些か小官に似すぎではありませんか?」  鹿金が拳を構えて、左手を突き出して探るように距離を図った。あの構えの意図は左手で注意を惹きながらの右足蹴りが本命だ。  ――あぁ、鹿金の考えていることが、まるで自分のことかのように分かる。相手の挙動を観察して理解したのではなく、むしろ自分がそう考えたから鹿金の体が動いたような。そう、例えるならゲームをやっていてコントローラーを動かしたら画面の中のキャラクターが動いたみたいなな感じだ。 「自分そっくりの顔を攻撃するというのは何ともやりにくいでありますなぁ……ッと!」  会話の途中で、突き出した左手で顔を殴ると見せかけて右手でフック気味に拳を繰り出す。当たれば良し、当たらなくともこれでできる死角から勢いのまま腰を捻らせて右足で蹴りを叩き込むという寸法だ。  拳の位置や軌道など、一つ一つの動きをとっても無駄がなく計算され尽くしている。ただパワーに任せているわけではなく、常に『次に繋げる』ということを意識した、むしろ頭脳を使い込んだ戦い方だったというわけだ。  鹿金が拳を出せば僕も拳を出している。鹿金が脚を出せば僕も脚を出している。対応でも反応でもなく、シンクロだ。  そうして僕と鹿金の拳がちょうど中間でぶつかり合い、次いで蹴りが交差するようにぶつかり合う。それは中心線で区切ればまるで鏡に向かって演舞しているように、寸分たがわぬ速さと動きだったことだろう。 「さぁ鹿金殿。鏡にじゃんけんで勝ったことはありますかな? ……っと」  変身の能力を使ってからまだ1分程度。だというのに、自我が大分薄れてきている。この「自我が薄れてきた」という感覚があるうちはまだ大丈夫だけれど、猶予はあと2.3分というところだろうか。  本当に使い勝手が悪い能力だ。実質的には3分も持たないのに消費する気力は半端ないし、勝ち確定の決め技というわけでもない。最悪自我が乗っ取られるのは良いとして、いや全然良くはないんだけれど、が消えるのはマズイ。  会話パターンを脳内でシミュレートする。そう、厄介なことに自分で自分の名前を呼んでも能力解除の条件にはならないからだ。
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