3章:戦闘技能試験・本戦

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「「むぅ……思考が読まれているというのは中々に鬱陶しいものでありますなぁ」」  離れた位置から同じ言葉が呟かれる。段々と鹿金の情報を。予想はついていたが、やはり鹿金の言魂は習熟度(マスタリー)が低いため、言魂を絡めた攻撃や防御は全くない。  いや、習熟度(マスタリー)が低いからというより、自身の言魂にあまり興味がないというか、己の戦闘技術だけで最強を示したい、といった方が適切か。  相手に変身する『模倣』の能力では、相手の言魂まで模倣することはできない。だから通常ならば身体能力などは相手と同じであるが言魂の分が引かれるため引き分け以下にしかならない。  ……むぅ。考えれば考えるほど、なおさらこの能力を使った意図が分からないでありますなぁ…………っとと、危ないな。なんか自分の中に人格が2つ共存している感じになってきたな。  試験の時間は10分。残りは1,2分程度といったところだろう。……思ったよりギリギリだ。やはり実践ではほとんど使えないな、この能力は。 「もう時間も差し迫っているでありますなぁ。雨代殿は随分とボロボロでありますから、このままでは判定負けになってしまうのでありませんかなぁ?」  鹿金は攻撃を止めると少し距離を取り、こちらをまっすぐに睨み挑発してくる。言魂は気力で発動するものだから、精神攻撃すれば変身が解除されるかもしれないという目論見だろう。  ここでむやみに突貫し続けるのではなく、状況を冷静に見極めて勝利への手を進めることができるのは、鹿金の強みだ。身体能力にまかせた戦いに見えて、その実、裏では一切の油断がなく計算されつくしている。それだけ戦闘に身を捧げているのだろう。  だからこそ、今回みたいなズルは気が引けるが、最初に闇討ちなんて卑怯な手を使ったのだから、これでお互い様だと言ってもいいだろう。 「こんなあっけない幕切れとは、ガッカリであります。ここまで勝ち残ってきたのであれば、もう少し骨があると思っていたであります」  それからも鹿金は精神攻撃を続けてくる。思考力を削るために物理攻撃もしかけてくるが、攻撃のタイミングも対処も分かっているので、反撃は無理だが捌くことはできる。  表面上は汗もかいていないが、あれも技術に過ぎない。鹿金は確実に焦っている。フラストレーションは溜まりに溜まっていることだろう。  やがて、ついに時が来る。 『10分が経過しました。試合を終了してください。ただいまより未決試合の判定を行います』
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