3章:戦闘技能試験・本戦

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『協議が終了しました。勝者──』  試験の制限時間10分が経過し、アナウンスが流れる。ダメージを与えるというよりは半ば嫌がらせのためであった鹿金の攻撃はピタリと止まり、僅かな静寂が訪れた。 『──雨代鏡介』  鹿金が静かに天を仰いだ。表情には怒りも悲しみも浮かんでいないし、それを発露することもない。しかし、その気持ちは痛いほどによく分かる。 「……本当に、あっけない幕切れでありましたな雨代殿」  ぽつり、と鹿金は言葉を零す。冗談のような口ぶりだが、とても重々しく感じられた。 「『元に戻れ』……あぁ、そうだねっぉぉぉぇぇぇ……!」 「急に倒れないでほしいであります。……はぁ、まったく。……しまらないでありますなぁ」  変身を解除したときの反動で、視界が歪み頭痛や吐き気が襲ってくる。体がシェイクされたような感覚だ。  これもあるから本当にこの能力は嫌なんだ。身体的な疲労や不調に加えて、アイデンティティの喪失というか、どうしようもない恐怖が胸中に渦巻いて鬱っぽくなる。常に不安で落ち着かない感じだ。  敗者はほとんど無傷で立っており、勝者は心身ともにボロボロで地に伏している。何とも歪な光景だ。  やがて頭の上からポーションが浴びせられる。これがなかったら絶対に使わなかっただろうな。 「戦闘技能試験ではなく、、でありますからなぁ……」  そう、これはあくまでも言魂技能試験。3つある勝利条件のうち、『1秒以上の気絶』と『10秒以上のダウン』はその限りではないが、『制限時間10分経過時点での判定』では言魂の技能についての評価になる。  鹿金はそもそも言魂を一度も使っていないのだから、どれだけ戦闘で勝っていたとしても、それは加点対象にはならない、というわけだ。 「しかし、分の悪い賭けだったと思うでありますが?」 「確かに、その辺の詳細は説明されていないからね。……でも、鹿金は初対面で僕の名前を知っていたから」 「……なるほど、勉強ができないからと油断していたであります」  察しはついていたが、記憶を読んで確信した。鹿金は軍人のとき諜報を担当していた。だから対戦相手が誰かということを知っていたし、試験の詳細も知りえていた。  そして鹿金には対言魂遣い相手でも白兵戦で勝てる自信と根拠があった。それならば、なおさら1対1の戦闘なら有利なはずだから、普通に考えればなんてするはずがない。  1回戦で相手を瞬殺したあと、鹿金は他の試合を観察して『判定』の基準を探っていた。そこで有利だったはずの方が負けているのを見て、言魂を有効に使えているかという基準に気づいた。  本来ならば勝利という結果が全てではなく、むしろ試合内容という過程が評価されるため、普通なら闇討ちという選択肢はいたずらに気力を消費するだけでメリットよりデメリットの方が多いのだが、評価対象となる言魂を使わない鹿金にとってはが求められていたため、闇討ちを決行したのだ。
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