第一話 ☆ まもなく三十路の私

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第一話 ☆ まもなく三十路の私

「えー、まさくんが買ってきてぇ」 「もう、みっちゃんは甘えん坊さんだなぁー」   あと一週間で、三十路となる私の唯一の楽しみ――それは妄想。 会社への行き帰りに出会う様々な恋模様。例えばこの帰りの満員電車で人目も(はばか)らず、座る私の目の前でイチャイチャしながら立つこのカップル。 そうね……きっとこの二人は大学生カップルと言ったところか。周りが全く目に入っていないことから、付き合ってまだ日が浅いのだろう。 私は静かに目を瞑り、彼らの会話に聞き耳たてながら一つのストーリーを頭の中で組み立ててみる。 たぶん彼氏さんの一目惚れから始まったのね、この恋は―― きっとこんなストーリー。 大学の入学式で風に飛ばされた彼女のカーディガン……そこに偶然、彼女のカーディガンを拾った彼氏さん達は運命の出逢いを果たすのよ。 そして彼氏さんは彼女に一目惚れをしたのだけども、悲しいことにその時彼女はイケメンの彼氏と付き合っていたの。 でも、諦めきれない彼氏さんは何度も何度も告白して――ようやく彼女のOKをもらえたの! あぁ、なんていう純愛。……でも、私ならもう少し紆余曲折あってもいいと思うのよ、そう、例えば反対に彼氏さんを好きな女の子が出現するとか―― 満員電車でブツブツと独り言を言う三十路の女がいたら、周りはどう思うだろう。 一瞬で危ない人だと察知し、きっと少し距離を取りたがるかもしれない。 ――そう、今まさに私がそんな状況に陥っていたのだ。
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