聖女、来る!

1/10

427人が本棚に入れています
本棚に追加
/387ページ

聖女、来る!

 ところ変わって、ガシュバイフェン。  ガシュバイフェンを治めるソーオン辺境伯爵こと、ディル・K・ソーオンは、先ほどから1ページたりとも進まないぶ厚い本を前に、重いため息をついた。  ため息に反応した執事のセバスチャンが慌てた顔をする。 「あ、主様(あるじさま)! な、なにか、お心を煩わすことでもございましたでしょうか? このセバスチャン、命じていただければなんなりと……」 「別に」  ディルは短く答える。彼はあまり口数が多い方ではないが、今日はいつにもまして寡黙だ。  気をつかったセバスチャンは、とりあえず温かい紅茶を気難しい彼の主人に差し出した。甘党の彼のために、いつも通り砂糖を多めに入れた紅茶だ。  ディルは差し出された紅茶をとりあえず黙って口にし、そして押し黙る。  あまりに気まずい沈黙が、二人の間に流れた。  ついに重苦しい雰囲気に耐えられなくなったセバスチャンが、口を開く。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

427人が本棚に入れています
本棚に追加