12.どうしてこうなったのか

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次に目覚めたのは、まだ日も明けぬ早朝のことだった。 どうしてかわからないけれど、私は服を着ておらず、隣には山科さんが疲れ果てて熟睡中だった。 なぜ?これは私の妄想世界? いや、男女の妄想はしてはいけないルールになっているし、私も法令遵守してきた。 そして、次の瞬間、昨夜の記憶が滝のように押し寄せてきたのだ。 あんなことや、こんなこと…… いや、いかんでしょう。 この人は麗子さんの婚約者、私は浮気相手の薄汚い女狐。 確かに、私は山科さんが好きだった。 けれど、やっていいことと、悪いことがある。 何でこんなことをしてしまったのだろう。 全身から汗が噴き出てくる。 とにかく、一刻も早くここを出なければ。 音を立てないように、着替え、荷物を持ち旅館を後にする。 受付に誰も人がいなかったのが、せめてもの幸いだ。 朝日が眩しい電車に揺られる。 こんなに後味が悪い朝は初めてだ。 いや、誰にもバレていない。山科さんも今起きて後悔しているだろう。 酒の力でなんてことをしてしまったのだろうと。 これは、完全に無かったことにするしかない。 ふと思い出しスマホをみると妙ちゃんからLINEが届いている。 「昨日、二次会で優美の結婚相手の話してたら、山科が優美の部屋に突撃したけど、楽しんだ?」 完全にバレている。血の気が引いた。 「他の人はなんて?」 そう送る。 「他の奴らは、山科が腹壊して部屋で寝てるとしか思ってないよw」 あーよかった。 世の中、馬鹿正直に何でもかんでも言うことが正義ではない。 ここで、麗子さんにあなたの婚約者と寝ましたと懺悔して、誰が喜ぶのだろうか。 完全に無かったことにするのが、誰も傷つけない正しい方法だ。 車窓を眺めると、海が金色に染まっている。 それにしても、山科さんも暖かかったな。 小さなため息をはく。
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