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ところが麗子さんの言葉は予想とは正反対に動く。
「私、山科さんと結婚を前提に付き合います」
私と山科さんは思わず一緒に叫んだ。
「えっ!?」
「あの時、優美ちゃんを助けようとした山科さんが、すごく素敵に見えた。この人なら好きになれるかも。そう思ったんです」
この場で一番動揺しているのは他ならぬ山科さんだった。
「……いや、でも麗子さん。俺はあの時もいいましたが、とんでもない分野の動画が好きでして。ぼくなんかじゃ麗子さんに相応しくないっていうか」
麗子さんは微笑む
「そんなこと気にしないで、私は将来を一緒に歩むパートナーを探してるの。一緒にこの会社のことを考えてくれる人、仕事面でも優秀な山科さんしかいない」
さっきまで後退りしていた山科さんは、「会社」という単語に急に正気に返った。
「麗子さん……会社のことは、ぼくに任せて下さい。必ず立派なパートナーになってみせます」
唖然と二人を見つめていた。山科さんは急に背筋を伸ばし、私に目配せをした。
「じゃあ、あとは二人で過ごしましょう」
どうやら帰れということらしい。
真剣に話し込む二人を背に一歩、また一歩と出口に向かって歩く。
戸を開けるとまだ完全に日は沈んでおらず、夕陽が綺麗で眩しい。思わず目を閉じた。
彼の夢は「ビッグになる」ことだ。
その夢がとうとう叶いそうなのに、どうしてこんなに涙が出るのだろう。
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