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翌日、営業開発部の送別会の日。多くの社員は日中は普段の仕事をこなしてから、旅館へとやってくる。
けれども一般事務の私は朝から旅館に乗り込み、部屋割りやら、宴会の座席割りやらさまざまな雑用をこなす。
これが業務に含まれているからだ。
夕方、五時。温泉目当てに早めに来る人がポツポツで始めた。なので受付でスタンバイし、部屋の鍵を手渡しする。
五時半ごろ、山科さんと斉藤さんがやってきた。
「お疲れ様です、斉藤さんは506号で山科さんは508号室です」
斉藤さんは愛想良く「内田さんありがとう」と言ってくれた。
山科さんは、私のことなんか見なかったように何も言わない。
前みたいに何か声をかけてくれてもいいのに、全てが前に戻ったのだ。あの数ヶ月は山科さん的には無かったことにしたいのだろう。
二人の背中をいつまでも眺めていた。
そうこうしているうちに部長がやってきて、ビンゴ大会の商品の確認や、式次第の確認が始まった。
「これとは別に、もう一つおめでたい話があって」
反射的に山科さんの結婚だと思った。
「斉藤が結婚するらしいんだ。総務部の中田さんと」
「そうなんですか、おめでとうございます」
「だから、そのお祝いもここで」
命拾いした。山科さんの結婚の話なんか聞きたくない。
「ここだけの話、麗子さんが近いうちに留学が決まったからり山科も近いうちにおめでたい話があるかもしれんけどな」
命拾いしていなかった。めちゃくちゃ被弾してしまう。
そこまで話が進んでいた。
もう先に進めない。
地獄の底に突き落とされたが、私には雑用という名の仕事が待っている。
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